【悪魔と山羊】バフォメットの角はなぜ象徴なのか?
中世ヨーロッパの魔女裁判、あるいは近代オカルティズム、あるいはブラックメタルのCDジャケット──
そこに必ずといっていいほど現れるのが、山羊の頭をもった謎めいた存在、「バフォメット」である。
この記事では、悪魔と山羊の結びつき、そして象徴としての「角」について、ざっくりと語ってみたい。
山羊はなぜ悪魔にたとえられるのか?
悪魔が座するサバトの儀式。
その中心には、玉座にどっしりと構えた山羊の姿をした存在がいる。
これは「バフォメット」と呼ばれる象徴的存在で、魔女たちが信仰したともされ、後世の悪魔学や芸術作品で頻繁に登場する。
そもそも山羊は、古代から「性」「野生」「本能」といった衝動の象徴とされてきた。
旧約聖書にも「贖罪のため荒野に放たれるアザゼルの山羊」が登場し、これが“罪を背負わせる動物”としての役割を持っていた。
やがてこれらの山羊のイメージが、悪魔学のなかで「地上的で堕落したもの」の象徴として集約されていく。
バフォメットは雄か?雌か?
バフォメットの身体には、不思議な特徴がある。
- 山羊の頭(角つき)=獣性と野生の象徴
- 胸には女性的な乳房=母性・受容のイメージ
- 下腹部にはカドゥケウス(蛇の絡まる杖)=男性性・知識・変容のシンボル
- 一方の手は上を、もう一方の手は下を指す=「上なるものは下なるものの如し」
つまりバフォメットは、男でも女でもない。両性具有(アンドロギュノス)であり、二元性の統合そのものなのだ。
宗教や神秘主義の世界では、このような両義的存在は「完全なる知」や「超越」を象徴するものとされる。
「角」はなにを意味しているのか?
バフォメットの角は、ただの山羊の飾りではない。
むしろそれ自体がきわめて濃密な象徴を秘めている。
- 古代宗教では、角を持つ神々(ケルヌンノス、パン)が自然・性・生命力を体現していた
- キリスト教的な文脈では、角はしばしば「堕落」「異端」「反キリスト」の象徴となる
- オカルティズムでは、角は「霊的な力」や「隠された知恵」のアンテナでもある
つまりこの角は、「自然の力」から「魔の力」への転化を象徴しているともいえる。
なぜサバトの中心に山羊が座すのか?
魔女たちのサバト(夜の集会)では、中心に山羊の姿をした悪魔が座し、魔女たちがその周囲に跪くという構図が定番だった。
これは恐怖の演出というよりも、「中心には超越的な力がある」という宗教的構図そのもの。
しかも、悪魔がバフォメット=両性具有であることは、魔女たちが男でも女でもなく、あらゆる既存の価値から自由になるという思想にもつながっている。
おわりに:悪魔と山羊の“角”が意味するもの
悪魔が山羊にたとえられたのは偶然ではない。
その獣性・本能性・神秘性──そして何よりも、人間の「恐れ」と「知りたい」という欲望が、その角の間に見え隠れしている。
バフォメットは悪の象徴であると同時に、世界の謎を秘めた存在でもあるのだ。
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