【オセロー感想】嫉妬と愛の炎に焼かれて―シェイクスピア悲劇の真髄

作品概要

シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『オセロー』には、魔女も幽霊も出てきません。けれど代わりに、悪魔のように狡猾な人間が登場し、地獄の妄想に育てられたような激情が物語を支配します。

悲劇か喜劇か、という分け方は結末がハッピーかどうかで語られがちですが、そんな区別にはあまりこだわらず、気楽に読んでみてほしい作品です。エリザベス朝演劇の時代、観客が求めたのは「面白さ」。悲劇も喜劇も、その本質は「人間の本性を暴くこと」にあったのです。

ちなみに、あの黒白の石をひっくり返す盤上ゲーム「オセロ」とは関係ありません(笑)。主人公のオセローはムーア人の将軍で、黒人としてヴェニスの社会で活躍する存在。1995年の映画版では、若きローレンス・フィッシュバーンがオセローを演じています。

あらすじ

舞台はイタリア・ヴェニス。オセローは異邦人ながら将軍としての手腕を買われ、美しいヴェニスの令嬢デズデモーナと恋に落ちて結婚します。しかしその異文化間の結婚に対し、デズデモーナの父親は激怒。オセローが娘に媚薬を盛ったのではと疑います。

それでも二人の純粋な愛を前に父はしぶしぶ結婚を認めるのですが、ここで物語にイアーゴーという悪意の化身のような人物が登場。彼はオセローの旗手でありながら嫉妬と逆恨みから、嘘と策略を用いて二人を引き裂こうとします。

イアーゴーは、オセローの副官キャシオーとデズデモーナが密通しているという虚偽の証拠を作り上げ、オセローの心に疑念の種をまきます。鍵を握るのは、一枚の小さなハンカチでした。

呪いのハンカチ

オセローがデズデモーナに贈った大切なハンカチ。それはかつてエジプトの呪術師から授けられたという曰く付きの布であり、彼にとっては愛と信頼の象徴でした。イアーゴーはこれを盗ませ、キャシオーに拾わせた上で、オセローに「不貞の証拠」として見せかけます。

怒りと嫉妬に狂ったオセローは、夜、ベッドでデズデモーナの首を自らの手で締めてしまいます。後にすべてがイアーゴーの奸計であったと知ったオセローは、悔恨と絶望の果てに自らを刺し、死んだ妻に抱かれて息絶えます。

ハンス・ザッカ作画

嫉妬という名の悪魔

「嫉妬」は恋する人なら誰もが経験したことのある感情です。それは、恋が成就した後ほど激しさを増します。自分だけのものであってほしい相手が、他の誰かに心を移しているのでは……そんな妄想が心を焼き尽くす。

『オセロー』において、イアーゴーは悪魔のように人の心を欺き、オセローは愛と嫉妬の炎に飲み込まれてゆきます。登場人物の誰もがどこか歪んでおり、決して単なる正義と悪の物語には収まりません。

これは「嫉妬」という人間の根源的な感情を徹底的に描いた作品です。難解と思われがちなシェイクスピアの中でも、意外に感情移入しやすい作品のひとつかもしれません。

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