イギリスを代表する詩人・画家ウィリアム・ブレイクの本は、予言の書とも呼ばれるように意味不明で難解である。しかし文章の不明瞭を鮮やかで個性的なイラストが助けている。
読者は深い意味なんか考えずに、感じるままを直観すればよい。このシリーズは1回につき2000文字程度の記事で全4回、原文を読みながら翻訳作業も行うとともに独自解釈を進める。
*前の記事はこちら→【ウィリアム・ブレイク】「天国と地獄の結婚」原文解読の試み(1)
プレート7〜10:地獄の箴言
旧約聖書の「箴言(ソロモンの知恵の書)」をもじったかの「地獄の箴言」はプレート4枚に及ぶ。その中からめぼしいものを抜粋する。
「欲しはするが行為しない者は疫病を蔓延する」
「切られたミミズは桑を許す」
「馬鹿は賢者が見る同じ樹を見ない」
「その顔が光り輝かなければ彼は星にはなれないだろう」
「忙しい蜂は悲しむ暇などない」
「気狂いらの時間は時計によって測られる。しかし賢き者の時間はいかなる時計も測ることはできない」
「全て滋養のある食物は網や罠で得られることはない」
「いかなる鳥も自分自身の翼で舞い上がるのならば、高く昇りすぎることはない」
「死体は侮辱されても復讐しない」
「悲しみの過剰は笑う。喜びの過剰は泣く」
「狐は罠を責める、自分自身ではなく」
「証明されたものとは、かつては想像されただけのものだった」
「鼠、マウス、狐、兎は根を見る。獅子、虎、馬、象は果実を見る」
「水瓶は貯蔵する。泉は迸る」
「ひとつの思念が無限を充たす」
「狐は自分自身のために準備する。神は獅子のために準備する」
「朝に想い、昼に行い、夕に食べ、夜に眠れ」「淀んだ水からは毒が立ちのぼる」
「もし君が何が充分以上かを知らなければ、何が充分なのか知ることはないだろう」
「勇気における弱者は奸智における強者である」
「汝が鷹を見る時、汝は天才の部分を見ているのだ。汝の頭を上げよ!」
「芋虫が卵を産むのに一番美しい葉を選ぶように、聖職者は一番美しい喜びに呪いを置く」
「一番良いワインは一番古いもの、一番良い水は一番新しいもの」
「烏は一切が黒であることを望んだ。梟は一切が白であることを望んだ」
「発明は真っ直ぐな道を作る。しかし発明なしの曲がりくねった道は天才のそれである」
以上どれも奥の深い「地獄の箴言」、解説は付けないが各自書き留めるなどして記憶に残していただきたい。
◯過去の「地獄の箴言」記事はこちら→ウィリアム・ブレイク「地獄の箴言」より〜狐とライオンの譬え
プレート11:聖職者
原始最古の詩人たちは全ての感覚的事物に神霊や神々の名を与えて呼び、樹々、森、川、山々、湖、はては国家までありとあらゆる属性を神格化した。それは彼らの拡張されたため数え切れない感覚が知覚したものらだった。そして主に彼らは精神的神霊の名のもとに都市と国を置いてその特性を学んだのだった。
南米のチャビン・デ・ワンタルやエジプトのピラミッド、イースター島のモアイ、ソールズベリーのストーンヘンジなどがその大きな例である。大地にはもともと町も都市も国もなかったのだが、その場所に住み着く神霊を人々が聖別することにより都市になるのだ。このようにして聖職が始まった。
聖職とは古代における芸術活動を指す。聖職者とは本来古代の芸術家である。モーゼ五書や旧約聖書なども元々は宗教の書ではなく芸術作品なのである。だが人々はこれらのことどもを神が命じたのだと思い込み、神々は人の胸の中に住んでいるということを結局忘れた。
◯チャビン・デ・ワンタルの記事はこちら→【チャビン・デ・ワンタル】南米ペルーの遺跡〜神殿地下最奥部にいる神〜El Lanzon
◯イースター島モアイの記事はこちら→【イースター島】〜モアイ像が建ち並ぶ幻想の島を夢見て
◯ストーンヘンジの記事はこちら→【ストーン・ヘンジ】太陽が昇る祭壇と古代人の儀式
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【古代エジプト神々・魔術用語集】ホルス・アヌビス・バーetc
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プレート12〜13:預言者との対話
預言者イザヤとエゼキエルが私と夕食についた。私は彼らになぜあれほど大胆に神が自分らに語ったであることを書いたのか。そして後世の人々によって誤解されるであろうことを考えなかったのか聞いてみた。イザヤがまず答えて「私は限られた身体器官の知覚によっては、神は見なかったし声を聞いたこともない。
しかし私の感覚は全ての事物に対し無限を見出していた。そして真摯な憤りの声は神の声であるとはっきりと確信していたので、後のことは考えずあれらの書を書いた」ブレイクがまた尋ねた「物事がそうなのだという確固とした信念は、物事をそのようにし得るのか」「全ての詩人はそうだと信じている。そして想像の時代その確固たる信念は山をも動かした。だが今では誰も確固たる信念を持つことが不可能になっている」
引き続いてブレイクがイザヤに、なぜ3年間も裸足と裸でいたのか。エゼキエルになぜ糞を食って右左に寝返りを打ちながら長く横たわっていたのかを尋ねた。
プレート14:知覚の扉
私が地獄から聞いた話では、世界が六千年の終わりに火によって焼き尽くされるのは本当である。なぜなら回転する炎の劔のケルビムは生命の樹の守護を離れるよう命令され、その時全ての創造物は焼き尽くされ無限な、神聖なものとして現出するからである。今は腐敗し限られたものとして現れてはいるが。
そのためにはまず人が魂から区分された身体を持っているという意識を消し去らなければならない。地獄の印刷術がこのことを可能にする。すなわち見せかけの表面を溶かしながら徐々に削っていき、隠された無限を開陳することによって。
もし知覚の扉が拭清められるならば、万物は人の目にありのままに、無限に現れる。なぜなら人は彼自身を洞窟に閉じ込めてしまっていて、狭い隙間からあらゆるものを見ているからである。
◯「知覚の扉」についての記事はこちら→ウィリアム・ブレイク【天国と地獄の結婚」】「知覚の扉」プレート版画について
*次の記事はこちら→【ウィリアム・ブレイク】「天国と地獄の結婚」原文解読の試み(3)