チベット仏教とマンダラの意味|『チベット死者の書』から読み解く意識の旅

哲学的偏見

チベット仏教【マンダラ】の意味〜『チベット死者の書』についての考察

マンダラの視覚的効用

ちくま学芸文庫版『チベット死者の書』(1991年、川崎信定訳)には、解説用として3枚のマンダラ図が収められている。チベット密教の実践者たちが、精神統一や瞑想の際にこうしたマンダラに向かって集中していたと考えても不思議ではない。

文庫版ではサイズは小ぶりだが、図の内容は十分に把握できるので、興味のある方はぜひ手に取ってみていただきたい。

「マンダラって何?」という方や、「知ってるつもり」という方は、まずは「マンダラ」で画像検索してみてほしい。カラフルで細密な図像がずらりと並び、それだけで視覚的に満足してしまうかもしれない。本場チベットのマンダラを収めた写真集や映像資料なども多数存在する。

三種類のマンダラのイメージ

チベット密教におけるマンダラにはさまざまなバリエーションがある。一般的な「円形」のマンダラだけでなく、『チベット死者の書』に掲載されたものには、男女仏が抱擁する姿を中心とする構図も存在する。

中央に一対の男女仏(静観または忿怒)を配し、それを囲むように複数のペアが配置される。図像を通じて構造を掴むことができれば、チベット密教の世界観がより深く理解できるだろう。

円形のマンダラは象徴的に男女の融合を示しており、ちくま文庫には表紙に1枚、本文中に2種(寂静尊・忿怒尊)計3枚が掲載されている。

男尊女尊マンダラについて

それぞれのマンダラには丁寧な図解が付されており、視覚的に理解しやすい。巻末の解説では、密教における瞑想と涅槃の原理が、本文中には学術的な注釈が付けられ、チベット密教の世界観が立体的に見えてくる。

たとえば、寂静尊のマンダラは「満足・慈愛・歓喜・優しさ」といった肯定的な感情を表現しており、一方で忿怒尊のマンダラは「怒り・暴力・苦悩・飢え」など負の側面を強調する。

こうした二面性は、仏性が持つ正と負、あるいは天国と地獄を象徴しているとも捉えられるだろう。

円形マンダラと意識の一点集中

マンダラがどのように解脱や悟りへ導くのか、詳述することは専門家の役割としてここでは控える。ただし重要なのは、「意識を一点に集中せよ」という導師の言葉が繰り返されている点である。

円形のマンダラが象徴する中心点――その一点こそが、バルドゥ(中有)での幻想や恐怖から脱する突破口なのだ。そこに一条の光が差し込む。それが“針の穴”のような微細な集中である。

さらに注目すべきは、チベット密教では性的エネルギーを否定的に抑圧するのではなく、むしろ解脱のための強力な力として昇華させている点にある。

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