アレクサンドリアの天文学者として最高の権威である、クラウディオス・プトレマイオスの「地理学」とその周辺について紹介する。
アレクサンドリア
筆者は天文学に発狂してしまったから、単なる言葉の遊びにすぎないような小説や詩、あれやこれやの仮説の議論をする哲学書なんかはレビューがストップしてしまった。
プトレマイオスの天文学書「アルマゲスト」があまりにも偉大すぎたためである:目下四苦八苦して読み中であるが、これほどすごい知性に古今触れたことはない。
この本を読んでると古代の宇宙人と話してるような眩暈に襲われる。例えばエジプト文明など、しばしば宇宙的な意味で優れた仕事を遺す古代人、中でもギリシャを経てエジプトでその極致に達した学問の都・アレクサンドリアの学者である。
アレクサンドリアの図書館は筆者が最も憧れ思いを馳せる施設であるが、プトレマイオスの書はまさにそこで生き活動していた人の生の声なのである。
ルネサンス
アレクサンドリアの学問がどれほど優れていたかは、ヨーロッパは以後中世のルネサンスまで学問の何らの進歩がなかったことで明瞭に理解できる。ヨーロッパはキリスト教を曲解し、ギリシャはじめ他国の哲学や学問を異端として排斥した。
以後迷信や言葉の遊びのような学問ばかりが生み出された。図書館は破壊されアレクサンドリアの書物はアラビアの「知識の館」へと移った。つまりそこではカリフがかつてアレクサンドリアがやっていたような、各地の書籍の収集を行いかつ、翻訳作業が行われていたのだった。
このようにしてプトレマイオスの書はルネサンスにヨーロッパへ逆輸入された。自分たちの知識の遅れに焦りを感じ始めていたヨーロッパは、アラビア語のアリストテレスやプラトン、そしてプトレマイオスをラテン語に翻訳して学ぶ。
ギリシャ語の研究所も現れ直接原文から翻訳されるようにもなった。このように歴史上アレクサンドリアから1500年も知識に穴が空いているのだ。そしてルネサンスがそれらの知識をようやく開花させ、進歩したものを後世に伝えることができたのだ。
地球の座標
「プトレマイオス地理学」は初めて緯度と経度を用いて書かれた世界地図作成のテキストなのだが、テキストと言ったのはこの本は読めば地図の見本がなくとも誰でも地図を作成できるようになっている設計図のようなものだからだ。
それはプトレマイオスが語っているし意図されたものでもある。なぜなら出来上がっている絵を次々に筆写していくという方法だと、長い年月のうちに誤差がどんどん大きくなるだろうから。
そうではなく書の中で各地の緯度・経度を記載し、いかにして球面なる地球を平面に表現するか、どのようにして地図を書き込んでいくかの方法をテキストにすれば、そういった不都合は解消されるという誠に賢明なる思慮による。
古代地図
というわけで本書の末尾に付いている世界地図は15世紀に書かれたもので、他にも各地で写本が行われているが基本的に同じ仕上がりになっている。筆者は本文の邦訳書以外に「プトレマイオス世界図」なる岩波書店の地図だけカラーで拡大複写した書籍を安く購入できた。
それを開いた時の衝撃と感動は言葉にできない。ドラクエの冒険の世界が目の前に広がったかのような、ワクワクさせる地図だった。地名は全部古代都市だし、南は15度以南は未知の世界にされていたり。
これをプトレマイオスはエジプトの首都だったアレクサンドリアで書いたのかと思うと、グーグルマップも人工衛星もない時代に、宇宙のみならず地球をも幾何学的に整然と分割しようとする学者の知性に感服した。
プトレマイオスはこれだけの地図を先達のマリノスの仕事を参照しながら訂正し、伝えられた旅行記録と天文データを元に作ったのであった。
まとめ
同じ書物が「宇宙誌」の名で出ているがこれは古書で70万する。こっちはバチカン写本の忠実な複製らしい。県立図書館などでは一般向け「プトレマイオス地理学」「世界図」は置いてあると思うので、興味が出た方は一度読んで見られると良い。
この世界地図は大航海時代にも利用され、コロンブスはアジアへ行くのに西へ向かうという大胆な賭けの発想で、偶然アメリカ大陸を発見したのだそうである。言うまでもなくプトレマイオスの地図にアメリカは書かれていないし、日本も中国も「未知の領域」である。大航海時代についてはそのうち調べてみたいと思っている。
<アマゾン・リンク🔽>