アリストテレス【自然学】――宇宙を動かす見えざる力を求めて

哲学

ヘルメス選集――運動・時間・場所をめぐる思索

「すべての動くものは、何かによって、何かの中で動かされる」――この命題はアリストテレス『自然学』の基本的な教義であり、後のヘルメス思想にも継承された。紀元前後のヘレニズム時代に編纂された『ヘルメス選集』は、プラトンとアリストテレスの思想を融合させた神秘哲学の文献である。

この中では、運動とはすなわち「時間」であり、時間なくして運動はなく、運動なきところに時間は存在しないと説かれる。そして動くものは常に「より強いもの」から影響を受け、「高きもの」から「低きもの」へと力は作用する。場所とは、そうした運動が行われる“余裕ある場”であり、不動という性質を持つ神秘的な領域とされている。

可視の神々――星々と神性の記憶

星座を見上げよ。それは動きながらも決して乱れることのない神々のダンスである。2000年以上もその配列はほとんど変化していない。私たちの祖先は、その永遠性に神の意志を見出した。

地上の生き物は、この宇宙という“海”を泳ぐ魚のような存在である。時間と運動の中で生まれ、死んでいく。その認識を持たずして、私たちは魂をただ世俗の欺瞞に明け渡しているのではないか。

星々は目に見える神々であり、運動の根源を宿す者たちである。古代の賢者たちは、天空の回転に神の性質を感じ取った。下位の存在が上位の存在を動かすことはない。地上は、天上に支配されている。

ダイモーン――悪しき仲介者たち

“ダイモーン”とは、神と人間の間に存在する空中の霊的存在である。『ヘルメス選集』においても、このダイモーンの存在は繰り返し言及されている。人の魂に直接作用し、欲望・怒り・暴力を煽る存在たちである。

彼らは物理的な身体を持たず、作用力を魂に向ける。そのため、理性による制御を欠いた人間は、簡単に彼らの影響を受けてしまうのだ。なぜ人間だけが自然から離れ、不幸になり、悪を行うのか――その答えの一端がここにある。

教育という霧――ダイモーンの策略

現代日本に生きる我々は、天体や宇宙の運行について、小中学校で形式的に学ばされる。テスト、宿題、進学といった“目的”に隠れて、その深遠な意味に触れることはない。

生きるため、稼ぐため、恥ずかしくない葬式を上げてもらうため……これが人間の人生の目的なのだろうか? この型にハマった“教育”と“社会”こそ、ダイモーンの作り出す霧なのかもしれない。

結論――見えざる支配者としてのダイモーン

アウグスティヌスの『神の国』第2巻でも、ダイモーンを崇める異端思想に警鐘が鳴らされている。ダイモーンは神ではなく、あくまで仲介者――空中の存在に過ぎない。しかし、彼らの影響は現実的だ。

星座、時間、場所、運動、そして人間の魂。そのすべてに潜む見えざる作用力があるとすれば、それはまさしくダイモーンなのだ。彼らは地球という舞台の上空に遍在し、人間の運命にさざ波を立て続けている。

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