"Vade ad mulierem lavantem pannos, tu fac similiter."
洗濯機
女の洗濯に学べ、的なエンブレム。これは要するに科学の本なのだから単純に化学の作用の話なのだろう。当時、洗濯は女の仕事であった;そこで21世紀に戻ろう。
ワンルーム・マンションの1室、週末、独身、予定もない。今週は働きずくし、自宅と職場を往復するだけの日々。家に帰れば風呂に入って寝るだけ、すぐ翌朝の目覚ましが鳴る。
それでも部屋に洗濯機はある。君は汚れているというほどではないにせよ、世間一般で言う社会生活上”不潔”と言われないで済むように、溜まった洗濯物をかつて”3種の神器”と呼ばれた機械の口に放り込む。
無論、水だけでは満足な清浄力が得られないから適当な市販の洗剤を入れるのを忘れない。それを君は外の太陽に晒すか、またはひっそりと室内で乾かすか、それはわからない。
洗剤
同じように最低でも洗剤を使い洗濯機で衣を洗うとしよう;しかしあくまで屋外で乾かすという前提で。乾燥機はNGである。それだとこのエンブレムの講釈ができない。
君は”水”を使って洗い、衣を”風”に当て、太陽の熱と光すなわち”火”に晒す;衣を洗うのは汚れているという前提があってのことだ。汚れは例えば泥すなわち”土”だとしよう。
土が水によって分解され、洗い流される。衣は濡れて冷たくなってそのままでは着れない、つまり使用できない。濡れた衣の水は風と熱が分解し、大気に蒸気となって取り除かれる。
太陽の熱と光は衣を乾かすだけでなく、使用により衣に付着したばい菌を殺傷する効果も持つ。こうして衣は再び衣装箪笥にしまわれ、次に着られるのを待つ。
4大
実に単純な日常で繰り返される作業過程の中に、自然の持つ美徳と作用力を学ばせられる。どうか皆さんもせっかく退屈で面倒臭い洗濯をするのならば、自然の力を実感するのをためらわないで欲しいものである。
土、水、風、火という古代人の4大元素の化学反応を、この洗濯という昔は女の仕事だった作業が実証している。”衣”の秘儀的内容について語るとすれば、あるいは”女”の持つ意味について云々するとすれば、話が長くなってしまうのであるけれども。
錬金術などといういかがわしい学問を扱う折には、あまり深読みはせずに済ませたいところである。つまりこのエンブレムが言わんとしているところは、風(EMBLEMA I)から来て土と水(EMBLEMA II)、そして今回は火という訳である。
4大元素の連関、それこそが錬金術の究めんとする自然の奥義なのであるから、この意義は「君の衣服を水で洗い、風に晒して、最後に太陽によって清めよ」という答えになる。ご静聴ありがとう。