エドガー・アラン・ポーの短編「不条理の天使」の紹介;その名の通り不条理な運命に弄ばれた作家の、酒に酔ったヤケクソな幻想のような笑劇”ファルス”。
炉端の午後
主人公は引きこもりにはもってこいの11月のうすら寒い午後、暖炉(文明は便利になったけれどもその代わりに燠火や静かな夕闇や窓辺の薄明かりは失われてしまった)際に引き寄せたテーブルに酒瓶を並べて、椅子に腰掛けて本を読んでいた。
ちょうど我々文明人が仕事漬けで滅多にない休みの日によくやるように、ポーの生き写しと思われる主人公もたっぷりと昼食を摂ってまどろんでいた。ただ1つ違うのはアマゾン動画などは見ずに、テレビもラジオも無く、種々の気が狂いそうな本を何冊か読みふけっていた、という点だ。
新聞記事
やや”痴呆状態”になっていた頭で彼は新聞を開いてみたが、さっぱり意味がわからない;次いで馬鹿げた死亡事故の記事を目にし叫んだ「恥知らずな嘘だ、コカインに酔ってでっち上げた事件だ」云々。我々の時代にもたまにそういう風な事件が起こることがある。
主人公は宣言した:今後「不条理な」事件は一切信じないと。するとある化け物が現れた。「おいおい、それはあまり感心なことてはないたろうな」読者もお気づきのように名訳のセリフには濁点がないのだった。以後、ずっとこの怪物は濁点を発音しない。
数奇な運命
怪物の姿は酒瓶と酒樽を組み合わせたような奇形、口はごぼごぼ音を立てる瓶のおちょぼ口のよう、話を真面目に聞かない主人公を酒瓶でぶん殴ったりする奴だ。こいつこそ”不条理の天使”だった。ふてくされてぶん殴られ主人公は泣きそうなった。
”さくらんぼ水”を彼に注ぎ込みながら不条理の天使は続けた;「おいおい、泣くんちゃないよ。あまり強い酒を飲むんちゃない。ちゃんと水で割らないとためたろう?」すなわちこいつは偶然の運命を司り不条理な出来事を起こして、懐疑家たちを戸惑わせるのが仕事だという。
目覚め
やがて怪物は主人公がスイカの種を吐き出したりしながら真面目に話を聞いてないことに気付いた。不機嫌になって立ち去ると次々に”不条理な”事件が続けざまに起こった。火災保険の更新に寝坊する、家が火事で全焼し髪の毛も燃えてしまう。
挙げ句の果てにハゲの状態で気球に吊り下げられて空中飛行など、しまいにあの”不条理の天使”がまた現れて言った「とうた、不条理の天使をしんちるのたな?」彼の世にも不条理な要求に答えられずに「地獄へ落ちろ」との叫びと共に空から落ちた。
気がつくと同じ暖炉の煙突から落っこちて転がっていた。ひっくり返って、テーブルに足を放り出し、まるでひどい二日酔いの目覚めのようなエンディング。これが”不条理の天使”の末路であった!