河出書房より刊行されている澁澤龍彦訳の「悪徳の栄え」上・下巻は小説全体の3分の1だけれども量的には充分。
サドの悪の哲学とはいえ同じことを繰り返し主張していることが多いにも関わらず、この”ジュリエット物語”がズバ抜けて面白いのは下巻部分の独創的幻想譚にある。
フランスの作家アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグがエッセー「ジュリエット」で述べているごとく、小説のイタリア旅行以降は様々な奇想天外な冒険で読者を釘付けにする、単なるポルノ悪徳小説では終わらない内容。
アペニンの隠者ミンスキー、ローマ大饗宴、大盗賊ブリザ・テスタとその物語、北欧秘密結社、シベリアの収容所脱出、ヴェスヴィオ火山見物など、見所はたくさんある。次に小説中特に筆者が面白いと感じた部分を列挙したい。
●参考→【城の中のイギリス人】マンディアルグのエロティシズム小説・澁澤龍彦訳紹介
ナポリの名所めぐり
「ナポリの名所めぐり」でジュリエットはサレルノの監獄に宿泊する。監獄と言っても事実上ひどい狂人を収容している精神病院である。ここで権力をふるっているヴェスポリは狂人相手の情事にしか感じなくなっていた。
独房の間を通り中庭に来ると”ヘラクレスのような”見事な体格の気狂いが裸で出てきた。縛を解かれるや”色々と奇妙な行動”を始めたが、まず最初のそれはジュリエットたちの足元に来て糞をすることだった。笑ってしまうではないか。
ヴェスポリは彼の行動を注意深く眺めながら自慰したり、糞に触ったり、ペニスを糞に擦り付けた。それから狂人を十字架に後ろ向きに磔にし、尻をズタズタになるまで鞭打ったあと狂人の肛門に挿入した。
「おお畜生!」とヴェスポリはわめいた、「気狂いの尻とは何たる快楽だ!わしも気狂いなんだぞ、胸糞悪い神様め!世界中で気狂いしか欲しくはないぞ。。。!」
筆者は物好きでサドのフランス語の小説を買って読んだことがあるが、「畜生!」は英語のおそらくFUCK!にあたり仏語だとFoutre!またはpar bleu!、sacré bleu!など”青い”を使うのだった。空の青にかけているのだろうか?むろん、sacré Dieu!(聖なる神め!)もあった。
ヴェスヴィオ見物
「ヴェスヴィオ見物」では有名なシーンである、女友達ボルゲーズ夫人をあっさり裏切って火山の火口に突き落とす場面がある。ボルゲーズ夫人は6分以上も火口内部を打つかりながらついに消え去った。
友達のクレアウィルは自慰しながら叫ぶ「ええ畜生!今度はこの火山の縁に寝転がって、あたしたち二人でおおいに楽しみましょうよ。もしこの行為が自然を侮辱するものなら、なんだって自然はあたしたちに復讐しないのさ?」
ローマの大饗宴
最後に「ローマの大饗宴」で用意された慰みものたちの顔ぶれを並べて締めくくりたい。ほぼマンディアルグと目の付け所が被ってしまったが。
去勢された男、両性具勇者、一寸法師、80歳の老婆、雄の七面鳥、猿、とても大きな犬、牝ヤギ、4歳の老婆の孫である。これらの面々が友達と一緒にひとつながりに結合する様には驚きの念を隠せない。
まとめ
やはりサドをはじめフランス文学を翻訳したら澁澤龍彦は第一流である。粋な日本語の語彙にも通じている氏だからこそ、このような読みやすく味わいある邦訳が出来上がるのだろう。
願わくば読者がこの作品を自らが悪徳を行うにあたり拠り所とし、自己の行為の理由付けとしないことを祈る。一切の制限を解かれた悪の世界はあなたの目の前に大きく口を広げるだろう。その底なしの深淵に向かって真っ黒い階段が降っているのを認めるだろう。