【エドガー・アラン・ポー】短編「ペスト王」レビュー|疫病都市の宴と狂気の王国
■ ポー流・酔っ払いファンタジー
1835年に発表されたエドガー・アラン・ポーの短編「ペスト王」(”King Pest”)は、酔っ払いと疫病と死のパロディが混ざり合う、奇妙でグロテスクな喜劇だ。
物語の主人公は、商船“気まま勝手号”の水夫コンビ──のっぽで痩せ型のレッグスと、ずんぐり体型で筋骨隆々のヒュー・ターポーリン。酒場「愉快な水夫」で酩酊し、金も払わず店を逃げ出すところから、彼らの大冒険が始まる。
■ 死の街を突っ切れ!
勢いのまま、二人はペストによって封鎖された危険区域へ足を踏み入れる。そこは死臭漂う地帯で、死体が転がり、建物は荒れ放題。酔っていなければ立ちすくんでいたであろう地獄のような光景だ。
奇声を上げて突き進んだ先で、一軒の建物へ突入──そこには、あまりにも奇怪な“晩餐会”が繰り広げられていた。
■ ペスト王と五人の家来
そこは葬儀屋の跡地。そしてテーブルを囲み、頭蓋骨で酒を飲み交わす6人の異様な人物たちがいた。
- ペスト王:長身の主君。黒い霊柩羽根の帽子をかぶり、人間の大腿骨を杖のように振るって命令を下す。
- ペスト女王:王と同じくらい背が高く、水腫で膨れ上がった巨大な女。口が耳元まで裂けている。
- アナペスト大公妃:若き女性。結核に侵され、経帷子を纏って優雅に座っている。鼻が長く、舌で鼻先を動かす。
- ペスティフェラス大公:太った老貴族。痛風で息を切らし、両頬が肩まで垂れている。葬式用マント着用。
- ペスティレンシャル公:アル中の紳士。発作を起こさぬよう、顎と腕を包帯で縛られている。耳が巨大。
- テンペスト公:卒中の男性。新しい棺桶を“服”として身につけており、椅子に斜めに座っている。
レッグスとヒューは、その場の空気も読まず宴に参加してしまい、ペスト王の怒りを買う。罰として1ガロンの混合ラム酒を飲むことを命じられる。
■ 暴走する宴
ヒューが挑むが失敗し、ペスト女王の号令と共に酒の樽へ沈められる。これに激怒したレッグスが樽へ突撃、酒が床に溢れ、宴は修羅場に。混乱の中、二人は“女王”と“大公妃”の腰や手を奪って(!?)そのまま船へと逃げ去る。
■ ペストと滑稽とブラックユーモア
この短編は、死と病の象徴をとことん戯画化し、笑いに転化させるポーの真骨頂ともいえる作品。疫病という重いテーマの中で、酩酊と下品さ、悪ふざけが全編を貫く。
不謹慎すれすれのこの短編は、まるで死と狂気のカーニバル。文学における“病的ユーモア”の傑作といえるだろう。
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