【エドガー・アラン・ポー】「アーサー・ゴードン・ピムの物語」とその背景|漂流・幻覚・南極の白き神
■ ポー唯一の“冒険長編小説”
この記事では、創元推理文庫『ポー小説全集 第2巻』に収録された「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」(The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket)を中心に、ポーの執筆背景とその魅力について語る。
作品の詳細レビューはこちら → 前編:漂流・反乱・人肉・幻の南極まで / 後編:死体、幻覚、そして白き神の出現
■ ポー、作家としての出発点
詩人・短編作家として知られるエドガー・アラン・ポーは、当初、雑誌の懸賞に応募することで文壇に登場した。23歳の時に「壜の中の手記」で最優秀賞を獲得し、編集者から『サザン・リテラリー・メッセンジャー』誌の仕事を任される。
■ 編集者ポーとヴァージニアとの恋
仕事を始めて間もなくポーは辞職してしまう。原因の一つは従姉妹ヴァージニアへの求婚。母親に反対され、ポーは酒に溺れるが、ついには許しを得て結婚に漕ぎつける。彼が26歳、ヴァージニアはなんと13歳だった(書類には21歳と記載)。
再びメッセンジャーに復職したポーは編集者として活躍し、部数を500部から3500部へと増やした。しかし報酬と編集方針の不満から再び辞職──まさに破天荒なキャリアである。
■ 『ピムの物語』の誕生
職を辞して家族とニューヨークへ移ったポーは、以前メッセンジャー誌で連載していた「アーサー・ゴードン・ピムの物語」を完成させ、長編として出版する。これは彼にとって唯一の本格的な長編小説であり、他の短編作品とは異なる異色の存在だ。
■ 構成と物語の展開
物語は少年アーサーと友人オーガスタスが密航し、航海に出るところから始まる。やがて船上の反乱、船底からの脱出、漂流、人肉嗜食、幻覚、そして“白い神”の待つ南極への到達へと突き進む。
ポー作品らしい狂気と幻想に満ちた前半と、やや冗長だが不気味な象徴性にあふれた後半。読み進めるうちに、“現実”と“超現実”の境目が崩れていくのを感じる。
■ まとめ:文明と狂気の彼方へ
生活の糧として書いた側面もあるこの長編だが、そこにはポー特有の狂気と異常な魅力が確かに息づいている。過酷な海と人間の極限を描いたこの物語は、読み終えたとき、21世紀の悩みが馬鹿らしく思えるほどの破壊力を持っている。
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