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【エドガー・アラン・ポー】短編「アモンティリャアドの酒樽」〜地下墓地に響く復讐の鈴の音

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エドガー・アラン・ポーの短編集を有名でない作品まで爪楊枝でほじくるように味わい尽くすシリーズ。今回は「アモンティリャアドの酒樽」の紹介。

憎しみ

奴が憎い。殺したい。恨みがある。大嫌いだ。主人公がそんな思いを抱いたのはフォルチュナアトに対してだった。どうやら彼はこの男のせいで財産や家名まで奪われて没落したのであろうか。それでも主人公が彼を殺すこと、復讐を実行に移すことを決心してからは、ますます親しく、ますます仲良く、

殺意なんかおくびにも出さずに彼の前ではニコニコしていた。なぜかと言うにこちらの企みが知れて警戒されたり逃げられたりしようものなら、一体どこに復讐があろうか、また殺人の犯行が警察にばれて世の法の処罰を受けたりなどしたら、これも復讐にはならない。

犯罪

主人公は完全犯罪によって恨みを晴らすことに決めた。フォルチュナアトはよほど出来た切れる男であった。しかし彼には弱点があった;すなわちワインの鑑定にかけては自分に並ぶものなどいないと自惚れていたのだった。

そこで主人公はこの弱点を利用しようと考えた。イタリアで謝肉祭のお祭りの日彼は道化師の仮装で街をふらついていた。帽子のてっぺんに鈴を付けていて、ふざけながら時々それが”チリン”と鳴るのだった。この鈴は後に続く犯行現場の暗闇で異様な効果を発揮するので記憶しておいてもらいたい。

地下

風邪気味だというフォルチュナアトに主人公は上等の葡萄酒”アモンティリャアド”を樽で手に入れたと自慢し、これから友人に鑑定を頼みに行くところだと言った。もちろん、フォルチュナアトが飛びつくのを見越しての作戦だった。

案の定彼は風邪気味で他に約束もあるにも関わらず”アモンティリャアド”と聞くや自分にまず味あわせろと言って断固聞かなかった。主人公はでは、と言いながら樽を閉まっている自分の地下蔵に行こうと申し出た。

硝石

地下蔵は実は主人公の家の代々の墓穴だった。しかも風邪を引いているフォルチュナアトの気管に悪影響を及ぼす、蜘蛛の巣に似た硝石があちこち垂れさがったり壁に張り付いたりしていた。松明をかざしながら暗闇を行く。気付けにメドック酒を煽りながら二人はどんどん奥へ進んだ。

「それ、そこだよ」主人公は一番奥の凹んだ象嵌のようになった暗くて良く見えない一角に誘った。次の瞬間あっという間に地面に取り付けてあった鎹と、花崗岩の柱とを利用しフォルチュナアトを縛り付けた。

復讐

「ヒ、ヒ、ヒ、これは何かの冗談だよね?そろそろ屋敷へ帰りましょうや。フォルチュナアト夫人もお待ちかねですよ」主人公は酔っ払った彼を尻目に、凹みに建築用の石で壁を積み始めた。一段、また一段壁が積まれていく。

閉じ込められだんだん酔いが冷めてきた彼は奥の方から低いつぶやきを発していた。非常にゆっくりと、復讐の快感を味わうため主人公は作業を行った。とても長い沈黙とそして鎖の激しく揺れる音を聞いた。10段で完成する壁の6段目あたりまで来た。

鈴の音

松明をゆっくり差し込むと突然奥から獣のような怒号がしてきた。声の大きさに突き飛ばされ一瞬尻込みしそうになる。だが頑丈な壁に手を突き安心して、彼よりも大きく恐ろしい声と凶暴な怒りで怒鳴り返した。フォルチュナアトは静かになった。

最後に石を積み上げる頃に貴族とは思えない奇妙な笑い声が中からしてきた。もう彼の名を呼んでも鈴の鳴る音しか聞こえない。主人公は胸がムカつき、作業を終えた。以後半世紀が経過したが、誰もフォルチュナアトの眠りを乱す者はなかった。

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