【ATALANTA FUGIENS】EMBLEMA VI.
――あなたの金を、葉の繁る白い大地に撒け
“Seminate aurum vestrum in terram albam foliatam.”
絵の描写と謎
この図像では、農夫が籠を手に畑を歩き、作物の種ではなく金貨のような小さな円盤を地面に撒いている。背景は緑豊かな田園風景で、木々と葉が繁茂する「大地」が広がる。
だが不可解なのはその表現――「葉の繁る」「白い」大地とは何なのか? 秋の落ち葉の敷き詰められた地面? あるいは雪景色? 曖昧な語句が象徴の謎を深めている。
金とはなにか
ここでいうaurum(金)は、黄金・貨幣・あるいは精子といった多義的象徴を持つ。「金を撒け」とは、種を撒く行為の暗喩でもある。種は土に撒かれて作物となり、収穫される――これは自然の摂理であり、また聖書でも繰り返し語られる比喩だ。
人もまた、種(精子)を通じて命を繋ぎ、社会は貨幣という交換の種によって動く。ここでは「金」とは、生命や価値を創出する“投入資源”を象徴していると考えられる。
種としての貨幣
哲学者が金銭を持つことは否定されないが、それに執着することは戒められる。金は所有するものではなく、適切に“撒く”ものだ。つまり「白く葉の繁る大地」とは、単なる物質的利益のためでなく、生命力や霊的価値を宿す場、あるいは神聖なフィールドのことではないか。
だからこそこの言葉は、「あなたの金を賢く使え。死んだ世界ではなく、生きた場に捧げよ」と語っているのだ。
“白い”という謎
ではなぜ「白い大地」なのか? これが一層象徴的な問題である。「白」とは純粋性、月、死、そして錬金術における“白化(albedo)”の段階――物質が浄化され、魂が輝く準備段階を意味する。
雪に覆われた地面を想像するなら、冬の死と静寂の中に、やがて訪れる春の芽吹きを見出すことができる。すなわち、「白」は死の象徴であると同時に、再生のための浄化でもある。
霊的な鍵
このような“秘儀的大地”に、あなたの金を撒け――そう語っている。無意味な浪費や堕落のためではなく、霊的肥沃に資する場へと投資せよという示唆だ。
ちなみに『ソロモンの鍵』によれば、金(黄金)は太陽(日曜日)に属し、白は月(月曜日)を象徴する。日と月の対比がここでも裏に潜んでいるのかもしれない。
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