シェイクスピア【ロミオとジュリエット】解説・感想〜命を奪う2人の「愛の誓い」

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シェイクスピアについて

ウィリアム・シェイクスピア、誰も知らない人はいないであろうこのイギリスの劇作家が、実は生前の記録がほとんどなく謎に包まれているということをご存知だろうか。新潮文庫版「ロミオとジュリエット」の解説によると、シェイクスピアの日記も手紙の一通も残っておらず、学者の中では実在を否定する意見すらあるそうである。

であるからシェイクスピアの人となりについて何か書くとするとまず”シェイクスピアは実在した”という仮定から出発することになる。それによると1564年生まれ1616年没らしい。活動時期は”エリザベス朝演劇”と呼ばれる劇場形式の時代で、これがどんなものだったかを知らなければシェイクスピアを解読はできないらしい。

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エリザベス朝演劇

日本の能楽のように、演劇は劇場の形態によって決まる。エリザベス朝劇場はまず観客側にせり出した土間部分のアウター・ステージがあり、別名プラットフォームと呼ばれる。次は通常の舞台のようにやや狭いインナーステージがある。最後に別名ギャラリーという二階舞台、すなわちアッパー・ステージがある。

「ロミオとジュリエット」第2幕の第2場で有名な”ロミオ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?”は、インナー・ステージとアッパー・ステージとで演ぜられる。バルコニーに顔を見せたジュリエットに、庭に身を潜めたロミオが愛を囁くのである。

エリザベス朝劇場はかなり小さく、円形または8角形だったことも覚えておこう。屋根は舞台上のみにかけられ、平土間は青天だったから雨の日は上映できなかった。そして観客と俳優の距離が近く、能楽堂のように複数の方向から観る舞台はライブ感に優れていたということも。

さらに当時は女優というものが存在せず、女性役は少年が務めていたという。つまりこの劇のジュリエットも、少年が演じていたのである。

日本の能楽

背景が木数本とか机と椅子だけとか、かなりシンプルであったことも能楽とそっくりである。能の背景は常に同じ松の絵だけであり、それだけに出演者のセリフが重要な部分を占める。シェイクスピアの劇が名言が多いのにもこういう時代流儀があったのだろう。

フランスの作家マンディアルグはエリザベス朝演劇に傾倒していたことを自ら述べているが、氏は三島由紀夫の傑作戯曲「サド侯爵夫人」を翻訳したことでも知られる。言うまでもなく「サド侯爵夫人」は日本の能楽と新劇とを融合しようと試みた作品なのである。

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あらすじ

イタリアはヴェローナ市、モンタギュー家とキャピュレット家は互いの確執のうちに激しく対立していた。縄張り争いのギャング同士のように、街で出会えば必ず血が流れるという有様だった。それを見かねたヴェローナ太守は両家に平和な関係を築くこと、命令に逆らえば厳罰を処すと宣告した。

ところがモンタギュー家のロミオはキャピュレット家の仮装舞踏会に忍び込み、その際偶然ジュリエットを見た。身分を隠して手を取りキスすると、ジュリエットは唇も許す。そう、二人はたったこれだけで命を奪う激しい恋に落ちてしまった!

ジュリエットは14歳にもならない乙女、ロミオの年は明かされていないがかなり若いと見える。そしてお互い童貞、処女だった。二人は翌日結婚することにし(なんという早業!)、ロレンス神父に神聖な絆を結びつけてくれるよう頼む。

家を密かに抜け出してきてロレンスの教会で式をあげた。幸福の絶頂もつかの間、街角でであったキャピュレット家の者と諍いが起こり、ロミオは最初穏やかに戦いを拒否する。まだ内密だがジュリエットと結婚したからだった。

ところが止めに入ったロミオの腕の下から相手が剣を突き出し、仲間が死んでしまう。相手は一旦逃げたが何を思ったか現場に舞い戻ってきた。逆上したロミオは情け容赦なくキャピュレットを倒して逃げた。この事件に対して太守による厳格な処罰が下される。つまりロミオのヴェローナ市追放である。

毒薬の調合

追放と聞き絶望に狂うロミオをロレンス神父は嗜める。まだ道はある。なんだその様は、貴様は女か。我と我が身を滅ぼそうなど、思い上がりも甚だしい。そんなようなことを言ってロミオの気を鎮めさせた。とりあえず今夜はジュリエットの部屋に縄梯子で登って、新床を共にせよとの薦めだった。

二人は夜明けまで過ごすが見つかったらロミオは殺される。神父は一考を案じるが急がなければならなくなった。キャピュレットはすぐにでも名家の美男婿パリスとジュリエットを結婚させようとし、もし嫌がるなら勘当だと娘に言い渡す。

彼女は死ぬような勇気を振り絞ってロレンスに助けを求めた。神父は仮死状態になる眠り薬を調合しこれを今夜飲むように言った。ジュリエットが墓に埋葬された後、ロミオと自分が迎えに行きマンチュアでしばらく鳴りを潜めようとの計画だった。

ジュリエットは婚礼の日の朝死んだようになって発見され、家は悲しみに震えた。墓場に埋められあとはロミオを待つだけという段、事故が起きた。ロレンス神父がロミオに使いに出した手紙が届かなかったのだ。何も知らないロミオは隠れていたマンチュアでジュリエットの死亡を知る。

墓所での奮闘

ロミオが松明を手に墓穴に入ると、婚約者パリスも訪れていてジュリエットに花を撒いていた。斬り合いになりロミオはパリスを倒し、自ら持参した本物の毒薬を飲んで息絶える。程なく目を覚ましたジュリエットは愛しい恋人が死んでいるのを見、ロミオの短剣でで自害する。

一足遅れてやってきたロレンス神父は目の前の惨状に震え上がって逃げ出すが、夜警に捕まって太守に引き渡される。全て事の成り行きを説明をし両家は悲嘆に暮れ、ロミオとジュリエットの銅像を市に建てて平和を誓うと宣言する。

まとめ

武家政治時代の日本では嫁入り道具として懐剣を持たせたという。操を守れなかった場合に自害するためである。ジュリエットは愛するロミオに捧げた貞操を二重結婚で破るくらいなら死を選ぶのである。またマルキ・ド・サド「悪徳の栄え」には、美徳の象徴としてのジュスティーヌをいたぶる悪の化身のような女ジュリエットが出てくる。

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」は現代に忘れられた激しい恋を描いて感動させる一方、愛の対局にあるものとしての死と絶望をも見事になぞっている。レオナルド・ディカプリオの映画にされたり軽薄な扱いもあるが、ジョルジュ・バタイユのエロティシズム文学にも通じるダークなロマンスとなっている。

*追記:日本語訳は悪くないが劇中に出てくる詩の部分はいつも思うがいただけない。もうちょっとましな文体でできないのかと思う。これならむしろ直訳してもらった方がまし。

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