ダンテ『神曲』まとめ (22) 煉獄篇 第28〜30歌 : 二つの河とベアトリーチェとの再会

ダンテ【神曲】まとめ(22)〜「煉獄篇」第28歌・第29歌・第30歌

第28歌:ふたつの涙の河とマチルダの導き

煉獄山の頂上にある「地上の楽園」にたどり着いたダンテ。そこには美しい女性、マチルダが花を摘みながら現れる。彼女はこの聖なる地の秘密──二つの河について語ってくれる。

一つは過去の罪を忘却させる「レテ」、もう一つは善を心に呼び起こす「エウノエ」。この二つの流れは、右目と左目から流れる悔恨と贖罪の涙のようでもある。

右目はホルス神の「ウジャトの眼」のように輝き、善の光を宿す。左目は悪への呪詛となって光る。涙とは、魂が再生するための聖なる水なのだ。

第29歌:神聖なる凱旋──グリフィンの車

マチルダとともに進んでいくと、荘厳な宗教的行列が現れる。7つの燭台、24人の長老、4匹の霊獣、凱旋車──その車を引くのは幻獣グリフィンである。

そしてついに、あの人が姿を現す──詩人ダンテの魂の女王、ベアトリーチェ。神聖な儀式の中心に彼女はいる。

グリフィンの翼には無数の眼があり、牛、ライオン、人、鷲といった象徴がその姿に宿っている。それは宇宙的秩序と霊性の結晶である。

第30歌:涙と懺悔、再会の瞬間

甘やかな歌声に乗せて花びらが舞い、ベアトリーチェがゆっくりと起き上がる。その姿を見た瞬間、ダンテの胸に若き日の恋心が蘇る。

感極まり、いつものようにヴェルギリウスへ想いを伝えようとするが、もはや彼の姿はない──悲しみの波が押し寄せ、ダンテは涙に暮れる。

だがベアトリーチェは言う。「泣いていないで、私を見なさい」。彼女の厳しいまなざしと慈しみが、過去の罪と向き合うようダンテに迫る。

彼女は24歳の若さで亡くなり、その後ダンテは現世の快楽や愛欲に逃げ、自らを見失っていた。再会した今、ダンテは激しい罪悪感に襲われ、嗚咽とともに崩れ落ちる。

ベアトリーチェはレテの水を飲む前に、涙による贖いと真の懺悔が必要であることを説く。それは天上界へ至る最後の関門でもある。

まとめ:煉獄の終わり、魂の裂け目

次回、煉獄篇はついに最終回──天上界への旅が始まる。ベアトリーチェに導かれ、ダンテは新たな世界へと踏み出していく。

プラトン『ティマイオス』によれば、人は生まれるときに自分の星が与えられ、善く生きた魂は死後その星へと還る。

崇高な魂と卑しい魂──その隔たりは言葉では埋まらない深淵である。人の魂は、善悪の選択によって、宇宙のどこへ帰るのかが決まるのだ。

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