ダンテ『神曲』まとめ (21) 煉獄篇 : 炎をくぐる試練とヴェルギリウスの別れ

ダンテ【神曲】まとめ(21)〜「煉獄篇」第25歌・第26歌・第27歌

「神曲」煉獄篇もいよいよ終盤──今回の見所はなんといっても第27歌。正直、第25・26歌は読み飛ばしても大きな問題はないかもしれない(笑)。

第25歌:最終圏「好色」の罪

ダンテ、ヴェルギリウス、そしてスタティウスの三人は、煉獄山の頂を目指して進んでいく。第七の圏では「好色」の罪が浄められていた。そこには火の中を歩む魂たちが──彼らは情欲の業火に焼かれながらも、貞節を守った聖者たちの名を唱えていた。

性欲は人間に与えられた快楽の中でも最も強く、また危ういものである。汚れた欲望に目が曇っていては、ベアトリーチェのような永遠の女性に再会する資格すらない。まさにこの罪の浄化こそが、彼女と向き合うための最後の試練なのだ。

第26歌:詩人たちの懺悔

業火に焼かれていた魂の中に、詩人グイド・グイニツェッリとアルナウト・ダニエルの姿があった。彼らは男色を含む様々な「好色」の罪を悔い、神へ祈りを捧げていた。

たとえ詩人であっても、あるいは芸術家であっても、罪の重さからは逃れられない。それがこの煉獄の厳しさである。

第27歌:炎の中を歩む者たち

天使が現れ、ダンテに火の中へ入るよう命じる。戸惑うダンテ──彼の脳裏に浮かんだのは、ベトナムの僧侶ティック・クァン・ドックの焼身自殺だった。

かつて政府への抗議として炎に身を投じ、瞑想するように沈黙のまま燃え尽きたその姿。勇気とは何かを問われる象徴のような存在だ。

ティック・クァン・ドック
ティック・クァン・ドック

だが、ヴェルギリウスがダンテを励ます。「ベアトリーチェに会いたくはないのか?」──その一言がダンテの心を奮い立たせる。

火をくぐった彼らの姿は、旧約聖書『ダニエル書』の三人の青年たちを思わせる。偶像崇拝を拒んだ彼らは、燃える炉に投げ込まれるが、炎は彼らを傷つけることなく、神の使いと共に火中を歩いていた。

ダンテたちもまた、祈りを胸に、静かに火の中を進んでいく。

ウェルギリウスの別れ──そして自由意志の始まり

火の浄化を終え、太陽が沈み、夢の中に「レア」という女性が現れる。やがて朝日が地上を照らし、ダンテたちは煉獄の最終段へとたどり着く。

そのとき、ヴェルギリウスはダンテに別れを告げる。「私の役目はここまでだ。これからはお前自身の自由意志を先達とせよ」

地獄の門から共に旅し、ダンテを守り導いてくれた師匠は、静かにその役目を終える。

ダンテの額から最後の「P」が消され、ついに彼は創世記に記された「地上の楽園」に到達したのだった。

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