ダンテ【神曲】まとめ(19)〜「煉獄篇」第19歌・第20歌・第21歌
第19歌~セイレーンの誘惑と悪臭の夢
「怠惰」の浄化を終えたダンテは、夢の中で怪物セイレーンに出会う。かつてオデュッセウスを惑わせたその魔女は、ダンテの夢の中では醜く藪睨みで吃り、手も引きちぎられていた。
彼女が甘ったるい歌声を響かせると、突然現れた「ある天性の女性」がヴェルギリウスに助けを求める。ヴェルギリウスがセイレーンの服を切り裂くと、その腹からは悪臭が立ちのぼる──魅惑の正体が露わになった瞬間、ダンテは夢から目覚める。
寝坊した学生のように慌てて立ち上がると、天使の声が響く。「悲しむ者は幸いである。彼らは慰められるだろう」。新たにひとつの罪が浄められ、二人は第五の環道、「貪欲の罪」の領域へと足を踏み入れる。
第20歌~清貧の美徳とユーグ・カペーの非難
第五の環では、魂たちが地面に腹ばいとなりながら、自分の貪欲を悔いている。彼らは涙ながらにマリアの「清貧の美徳」を讃えていた。
その中に、フランス・カペー朝の祖、ユーグ・カペーの魂がいた。彼は自らの子孫──歴代フランス国王たちがいかに富と権力に溺れ、悪政を敷いてきたかを激しく告発する。
やがて語りが終わると、突然大地が揺れ動き、煉獄全体が響き渡るような震動に包まれる。あらゆる方角から「神を讃える歌声」が轟き、場面は霊的な高揚へと転じていく。
第21歌~詩人スタティウスの登場
大地震の理由を知りたがるダンテに代わって、ヴェルギリウスがひとりの魂に問いかける。その答えは──誰かが己の罪の完全なる浄化を悟った時、煉獄は天に向かって揺れるというのだ。
その魂の名は、ラテン詩人スタティウス。1世紀ローマで活躍した詩人で、ミルテの冠を授けられた文化的英雄でもある。詩は芸術であると同時に競技でもあり、彼のような詩人には月桂冠が贈られた。
スタティウスは、自分がヴェルギリウスの詩をいかに敬愛してきたかを語り、自らの詩作の源泉は彼にあったことを打ち明ける。それが当の本人であると知って驚き、敬意を表す彼の姿に、ダンテは思わず微笑む。
まとめ~誘惑と崇敬のあいだで
今回の三歌では、ダンテが夢の中で誘惑に打ち勝ち、歴史的王族の堕落を目の当たりにし、やがて敬愛する詩人との出会いを果たすという、情緒のグラデーションが描かれる。
煉獄篇もいよいよ終盤。頂に待つベアトリーチェの光に、ダンテの魂は耐えられるのか。
読者もまた、旅の同行者として、ベアトリーチェのまばゆい真実の光に出会う準備を──静かに進めている。
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