鬼の隊長の出発の合図はおならだった。手下の悪鬼どもはあっかんべーをしてそれに応えた。中世ヨーロッパらしいユーモアが第22歌前後で披露される。地獄巡りも佳境に入り、心なしか詩人のペンにも熱と力が感じられてくる。
第22歌〜チアンポロ
10匹の鬼どもがダンテとヴェルギリウスのお供をしていた。灼熱の瀝青が煮える5番目の濠の周りでコミカルな争いが繰り広げられた。
一人のずる賢い罪人を巡って鬼たちは戦いをおっぱじめる。こいつは口が達者でうまく鬼を騙し、瀝青の中に逃げ込むのに成功した。特に名前はないが学者にはチアンポロという呼び名で知られる。
獲物を取り逃がした肉食獣のごとく、2匹の悪魔が罵り合って取っ組み合いを始めた。するうちにもんどり打って二匹とも濠に落ちた。仲間が慌てて引き上げるも鬼は無残に翼まで焼け爛れていた。
アホな鬼どもは放っといて、二人は構わず歩みを進める。
ウィリアム・ブレイク画 「鬼に責め苦を受けるチアンポロ」
第23歌〜大祭司カヤパ
ダンテは怒り狂った鬼が追いかけてくるのではないか、と心配する。案の定かれらは背後から襲いかかりつつあった。
師匠が素早くダンテを抱いて第6の濠へと逃げ果せた。各かくの死刑執行人はその決められた領域でしか、力を発揮できないのだ。
6番目のマレボルジェでは偽善者が金ピカの衣装を纏って歩いている。だがその服はこの上なく重い鉛でできていた!その中にはボローニャの「陽気な修道士」と呼ばれていたカタラーノとロデリンゴもいた。
重苦しい足取りの行列に踏みつけられている一人の男がいる。彼は地面に磔にされて苦しんでいた。キリストの死刑判決を宣告したユダヤ大祭司・カヤパだった。この裁判によって、人類を救うべく地上に来た神の子は十字架に架けられた。
第24歌〜不死鳥(フェニックス)
濠を跨ってかけられた岩の橋を登って、二人は7番目のマレボルジェへと来た。
そこは盗人が苦しめられている刑場であった。すなわちありとあらゆる大蛇・毒蛇がぎっしりと蠢く谷に、罪人らは投げ決まれていた。
狼狽して逃げ惑う輩は蛇に噛みつかれるとフェニックスのように火の粉を飛ばして燃え上がる。灰は崩れ落ちるがすぐまた集まって元どおりになるから、際限なく蛇によって苦しめられる。ちなみにフェニックスが蘇るのは五百年ごととのことである。
フェニックスは古代エジプトにおける太陽神ラーに付き添う鳥、ベンヌ(Bennu)を起源としている。不死鳥・火の鳥などと呼ばれる。夕に冥界ハデスへと入り、朝再び蘇る太陽神と同一視されていた。
人々は蛇から隠れようと血宝石(エリトローピア)を探し求める。血宝石は所有する者の姿を見えなくする力があり、ボッカッチョの「デカメロン」にも登場する不思議なアイテムだ。だが地獄のどこにもそのような有難い石は無い。
まとめ
マレボルジェはあと三つ残っている。その後第九の谷があり、そこは同心円状に4つに分かれている。そこに巨人や裏切り者のユダがおり、地獄の底には悪魔大王がいるのである。
長い道のりであるが、悪魔大王目指して突き進もうではないか 😆