ダンテ『神曲』解説(5)地獄篇:異端・地獄構造・ミーノータウロスと血の池

ダンテ【神曲】まとめ(5)〜「地獄篇」第10歌・第11歌・第12歌

『神曲(Commedia)』レビュー第5回。今回は地獄篇の中盤、第10〜12歌を取り上げる。全体で100歌から成るこの大作の中でも、地獄篇は最初の大きな山場であり、その構造と象徴が深まっていく。

第10歌──火を吐く墓と異端の魂

ディース市の城壁を越えたダンテとウェルギリウスは、第6圏=異端者の地へと入る。そこでは石棺のような墓から火炎が噴き出しており、その中で亡者たちが責め苦を受けている。

地元フィレンツェの知人たちがそこにいて、ダンテの未来について予言的な言葉を投げかける。興味深いのは、地獄に堕ちた者たちは「未来」は見えても、「現在」は見えないという能力の制約である。これは、永遠の中にあって現在から断絶された魂の姿を象徴している。

第11歌──地獄の構造と倫理分類

悪臭に満ちた空間にあって、しばしの休憩をとることにした二人。ここでウェルギリウスは、ダンテに対して地獄の全体構造を講義する。

地獄は「漏斗」状に掘り下げられ、進むごとに狭く深くなっている。すでに通過してきた6圏に続き、第7圏以降は、それぞれ異なる3つの「環(マル)」に分かれた構成となっている。罪の重さと性質に応じて、空間そのものが変化していく。

この区分はアリストテレス的な倫理学とトマス・アクィナスの神学を融合させた構造であり、ダンテが単なる詩人ではなく思想家でもあったことをよく示している。

第12歌──ミーノータウロスと血の池

第7圏に至る斜面に現れるのは、牛の頭と人間の身体をもつミーノータウロス。その誕生神話には、神への冒涜、欲望、そして異形の誕生というテーマが凝縮されている。

ウェルギリウスの叱責によって怒り狂うミノタウロスを振り切った二人は、次なる地「血の池」へと足を踏み入れる。ここは、暴力の罪を犯した者が煮えたぎる血の中で罰を受ける場所である。

ここで登場するのが、上半身が人間・下半身が馬という姿のケンタウロスたち。特にその中のリーダーであるケイロンは、英雄アキレウスの師として知られた人物。彼はダンテたちに従者をつけ、血の池の浅瀬を案内させる。

この場面には暴力と制御、野性と知性のテーマが交錯し、地獄篇の世界観にさらに深みを加えている。

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