ダンテ【神曲】まとめ(2)〜「地獄篇」第1歌・第2歌・第3歌
要約
詩聖ウェルギリウスと出会い、地獄巡りの旅へと踏み出したダンテ。しかしその第一歩は容易ではなかった。地獄の谷を見下ろす険しい斜面を前にして恐れを抱き、思わず引き返そうとする。それに対してウェルギリウスは、天上にいるベアトリーチェがダンテを救うために自分を遣わしたのだと語り、彼の心を励ます(第2歌)。
その言葉に背中を押されたダンテは、再び決意を固め、深く沈む闇の世界へと歩を進めていく。

▲ダンテの地獄(古版挿絵)
永遠の女性、ベアトリーチェ
ダンテが生涯を通して敬愛し続けた存在──それがベアトリーチェである。9歳のときに出会い、18歳のときに再会した彼女に深く心を奪われたダンテは、彼女の死後もなお思いを捨てきれず、詩集『新生(La Vita Nuova)』にその情熱を記した。
『神曲』においてベアトリーチェは、天国に住まう霊的存在として描かれ、ダンテを救済へと導く象徴的存在である。地獄と煉獄を通過したのち、煉獄山の頂において彼女が現れ、以後は天国篇での旅の案内役を務めることになる。
『神曲』全体は、地獄・煉獄・天国という三重構造を持つが、その中心にあるのは、人間の魂を真理と神へと導く「愛」の力であり、それがベアトリーチェという名で体現されている。
地獄の門──言葉の刃
旅の本格的な始まりは、あまりにも有名な一句とともに始まる。
「この門をくぐる者は、すべての希望を捨てよ」
──これはただの警句ではなく、魂の救済が一切叶わぬ世界への宣告である。門の向こうに広がるのは、善にも悪にもなりきれなかった者たち、すなわち「決断を回避し続けた者」の世界だ。彼らは善悪のいずれにも分類されず、どこへも行けない。
地獄の最も浅い領域で、名もなき魂たちはひたすら虚無の中をさまよい続ける。ここには道徳的判断を下さなかった大衆の末路が冷たく示されている。
アケロン川とカロンの怒声

▲ユージェーヌ・ドラクロワ「ダンテの小舟」
やがて現れるのは、冥界を流れるアケロン川。渡し守のカロンは恐ろしい老人として描かれ、怒声とともに舟を操る。亡者たちは列をなして川を渡り、次々と地獄の深部へ運ばれていく。
この光景を、19世紀のロマン派画家ドラクロワが名画として描き出している。ダンテとウェルギリウスが舟に乗るその瞬間、天地が震え、雷鳴が轟き、ダンテは気を失って倒れる──この場面で第3歌は幕を閉じる。
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ダンテ【神曲】まとめ(3)〜「地獄篇」第4歌・第5歌・第6歌
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