ダンテ【神曲】まとめ(16)〜「煉獄篇」第10歌・第11歌・第12歌
第10歌〜岩を背負う魂たち
もし少しでも後ろを振り向こうものなら、ここ煉獄では最初の門まで戻される。これは、過ぎ去ったものに囚われず、ただ上を目指して進めという神の戒めだ。
ダンテとヴェルギリウスは歌声に導かれながら、煉獄の第一の環道へと入っていく。
山道は螺旋状に高みへと続いており、その幅は人の身長の3倍ほど。片側は崖で空に接し、山肌には神話や聖書に基づいた壮麗な大理石の彫刻が施されていた。
この環道では傲慢の罪を浄める魂たちが、巨大な岩を背負い、強制的にかがみながら歩いていた。かつて上を見ていた者たちが、いまは地面を見つめて進む。
第11歌〜高慢と謙虚のあわいで
傲慢の罪を背負う者たちは、己の過ちを語りながら登っていた。その姿を見ながらダンテは、なぜ煉獄の第一段階が「高慢」なのかを考える。
思うに高慢とは、「自分が他人より偉い」という信念を根に持つ感情だ。これはやがて周囲を踏みにじり、虐殺を欲する暴虐な思想に変貌する。まさにそれは地獄を生み出す心である。
しかしダンテは今、地獄を通り抜けてここに至った。悪が転じて善に向かうこの場所では、「私は偉い」という思いはすでに砕かれている。
第12歌〜刻まれた罪、消される罪
ヴェルギリウスはダンテに言う。「目を下へ向けて歩け、そうすれば心が軽くなる。」
かつて誇らしげに顔を上げていた者たちは、いま下を見て、路面の彫刻に目を留める。そこには高慢の罪で罰せられた者たちの神話が刻まれていた。
彼らの物語を目で追いながら歩くことで、自分自身の罪も内側から静かに浮き上がってくるのだ。
やがて昼時、天使が現れてダンテの額に刻まれていた“P”の文字を一つ消した。その瞬間、彼の身は明らかに軽くなった。
罪を浄められるたびに、魂は重荷から解放され、歩みは軽やかになる。やがて二人は、第二の環道へと進んでいく。
まとめ──謙虚なる登攀
人は「偉そうな態度」「思い上がり」を無意識に抱きがちだ。
通勤途中、胸を張って歩く者。人を見下すような表情。席にふんぞり返る姿。あるいは、心の奥で他人の首を刎ねたいと密かに願っているかもしれない。
そのような精神の歪みは、やがて自己をも破壊していく。だからこそ、煉獄の第一歩は「高慢」を浄めることから始まる。
下を向いて歩くことで、見えてくるものがある。足元には歴史があり、物語があり、罪がある。その罪を目に刻み、己を浄めながら、ダンテは登っていく。
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