ダンテ『神曲』解説(15)煉獄篇:休息・蛇の襲来・煉獄の門の三段

ダンテ【神曲】まとめ(15)〜「煉獄篇」第7歌・第8歌・第9歌

第7歌〜休息

ヴェルギリウスと同郷の吟遊詩人ソルデルロの話により、煉獄では日が暮れると活動不能となる由が語られる。夜の闇とともに、人々の力は失せるのだ。

これは地獄とは異なる摂理であり、過酷な山登りに与えられた安息の時である。それはあたかも浄罪に苦しむ魂に与えられた天の慰めであろうか。

ソルデルロはとある岩場の窪みへとダンテたちを連れて行く。そこにはすでに聖母マリアへの祈りを歌いつつ、束の間安らいでいる魂たちがいた。

彼らは静かな信仰心に満たされながら、天の時が再び巡ってくるのを待っている。強制的に「休め」と命じられることではなく、魂の自然なリズムに従った休息なのだ。

第8歌〜蛇と天使

休んでいる御霊たちとダンテの元へ、やがて二人の天使が舞い降りてきた。手にはそれぞれ切っ先の欠けた剣を持っている。

これは戦うための武器ではなく、あくまで魂たちが安心して休息できるようにとの配慮であった。いわば夜の守護者たちである。

というのも、夜の闇に乗じて、一匹の蛇が飛んできたのだ。それはまさに、楽園にいたイブを騙して知識の実を食べさせた、あの古の蛇である。

しかし、蛇は天使によって即座に撃退される。ダンテらは恐怖する暇もなく、ただ圧倒的な秩序と光の支配を見守るばかりであった。

闇の中にあっても、天の光が一瞬にして闇を打ち破る──その象徴的場面である。

第9歌〜煉獄の門と七つの“P”

やがて、ダンテは眠りに落ちる。夢の中で詩人は、ガニュメデスを攫って神々の酒注ぎとした鷲のような鳥に、掴まれて天高く持ち上げられる幻を見ていた。

目覚めると、傍には天の女人ルチーアがいた。彼女は聖母マリアのそばに仕え、ベアトリーチェの知人でもある。かつてヴェルギリウスをダンテに遣わした背景にも、ルチーアの配慮があったのだった。

ルチーアは詩人を煉獄の門口へと運んでいた。そしていよいよ、煉獄の本門が現れる。

煉獄の三段の石段

門には象徴的な三段の石段があった:

  • 第一段は、己の姿をありのままに映す澄んだ大理石。すなわち「自己認識」
  • 第二段は、深い亀裂が入った焼き石で「悔恨」
  • 第三段は、血のように赤い班岩で「贖罪」や「犠牲」

それぞれの段が、煉獄に入る魂の精神の変容を表している。

七つの“P”の刻印

門番の天使はダンテの祈りを聞き入れ、詩人の額に“P”の文字を七つ刻む。これは罪(イタリア語でPeccato)の頭文字であり、七つの大罪を意味する。

煉獄の登攀に従って、この刻印は一つずつ消えていくことになる。

天使は金と銀の鍵を使って門を開き、ダンテに通行を許す。

こうしてついに、詩人は煉獄の門内へと入ったのであった。

まとめ──天に至る旅の第一歩

この3歌においてダンテは、「休息」「守護」「祈り」「刻印」「通過」といった霊的体験の準備段階を踏み終えた。

地獄では絶えず責め苦に晒されていた魂たちも、煉獄においては希望の中で苦しむ

この地での登攀は、まさに魂の内面の登山である。

その出発点において、天使が夜を守り、石段が魂の構造を照らし、そして七つの“P”が人間の根源的な罪を自覚させる。

やがて山を登り切ったその先には、最愛のベアトリーチェが待っている。ダンテは、自らの過ちと苦悩を抱きながら、彼女の微笑みへと歩を進めるのだ。

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