ダンテ『神曲』解説(11)地獄篇:裂かれるマホメット・病み苦しむ錬金術師・偽証と近親相姦

ダンテ【神曲】まとめ(11)〜「地獄篇」第28歌・第29歌・第30歌

全34歌ある地獄篇の終盤、第28〜30歌を解説。第8圏「マレボルジェ」の10個の濠はこれで最後を迎える。中傷、詐欺、そして狂気の数々──地獄の風景はますますグロテスクに、暴力的に展開していく。

第28歌──分裂を引き起こした者たち

第9の濠では、宗教的・政治的分裂を煽った者たちが、絶え間なく身体を切り裂かれる。

代表的な罪人として登場するのが、預言者マホメット。中世ヨーロッパにおいて異端視されていた彼は、顎から股間まで裂かれ、臓物を垂らした状態で登場する。

その隣には娘婿アリー(顔面が縦に裂かれている)も並び、共に血にまみれながら呪詛を叫ぶ。

また、首を提灯のように掲げて歩くベルトラン・ド・ボルンの姿も強烈なイメージを残す。彼はイングランド王子を父王に反逆させた罪で、思考(頭)と行動(身体)を分離されたのだという。

第29歌──錬金術師と詐欺師たち

マレボルジェの最終第10濠では、贋金造りや錬金術師、詐欺師たちが病に倒れ、互いにのたうち苦しんでいる。

その中には、ダイダロスのように「空を飛べる」と豪語して貴族に嘘を教え、火刑となったグリッフォリーノが登場する。

またこの場面では、神話との連結も現れる。ダイダロスとイカロスの物語──空を飛ぶ翼、そして太陽に焼かれて落ちる運命。知の奢りと転落というテーマが、ダンテの筆で再び現れる。

第30歌──偽証と近親相姦の地

さらにここには、ジャンニ・スキッキという人物も登場。遺言を改ざんするため死体に成り代わり、公証人に偽の言葉を述べたという奇行で知られている。

他にも、フェニキアの王女ミュラー(ミルラ)が罰を受けている。彼女は自らの父に恋し、他人のふりをして交わった。やがて絶望の末にミルラの樹へと変じ、そこから美青年アドーニスが生まれたとされる。

ミルラは古代エジプトで香料・鎮痛剤・ミイラの防腐剤として用いられたが、ここでは肉欲の異常神話的悲劇の象徴として現れている。

まとめ

ダンテは、第30歌の終わりであまりに凄惨な光景に見とれてしまい、師ウェルギリウスに注意される。その忠告に深く反省し、いよいよ地獄の最深部──第9圏へと足を進めていく。

そこには巨人、そして最大の裏切り者たち──ユダ、ブルータス、カッシウス──そして悪魔王ルチフェロが待っている。

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