ダンテ【神曲】まとめ(26)〜「天国篇」第7歌・第8歌・第9歌
第7歌〜ホサナの飛翔とキリストの神秘
水星天での出会いを終えた魂たちは「ホサナ」の讃歌を歌いながら、天空を満たすように一斉に飛び立っていく──まるで地上の小鳥の群れが一斉に舞い上がるように。
「ホサナ」とはヘブライ語で「救いたまえ」の意味。彼らは二重に輝くひときわ強い光の魂に導かれ、稲妻のごとく去っていく。ついでベアトリーチェが、キリストの贖罪、そして神の子の受肉について神学的な解説を与える。
難解な教義も、ここでは光と調和の中で語られ、それが「天国篇」の特徴となっている。
第8歌〜金星天(ヴィーナス)と愛の星
ダンテとベアトリーチェは次に「金星天」へと昇る。愛と美の女神ヴィーナスの名を冠するこの星は、明けの明星・宵の明星として私たちの空にも輝く。
その瞬間、ベアトリーチェの美しさが一段と艶やかに変わる。地上的な性愛とは異なる、天的な愛の輝きがそこにある。
金星はラテン語で「ウェヌス(Venus)」、ギリシャ神話のアフロディーテと同一視される。英国ポップスの名曲でも「I’m your Venus, I’m your fire…」と歌われるこの星は、人類の想像力を刺激し続けてきた。
ここで出会うのは、若くして世を去ったハンガリー王カルロ・マルテルロ。ダンテのかつての知己であり、彼は「人間はそれぞれの資質(性分)に即した生き方をすべきだ」と語る。その教えは現代にも通じる、職業や生き方に対する含蓄を帯びている。
第9歌〜娼婦ラハブと信仰の印
カルロに続いて語るのは、名の知られざる女性クニッツァと司教フォルケ、そして旧約聖書に登場する娼婦ラハブ。
ラハブは『ヨシュア記』に登場する人物。エリコの町に住みながら、イスラエルの神の力を信じ、ヨシュアが送り込んだ偵察兵をかくまったことで、自身と一族の命を救われる。
町に攻め入るイスラエル軍が見つけやすいように、彼女は窓に赤い紐を垂らしていた──信仰と裏切り、救済と報いが織り成す象徴的なエピソードである。
このように「天国篇」では、聖書の逸話や歴史上の人物が登場し、それぞれが神の慈悲と正義を語っていく。
まとめ:天国篇という“光の古典”に耐える読者たちへ
地獄や煉獄と比べると、「天国篇」は正直、視覚的にも展開的にも地味で退屈に感じられるかもしれない。
しかしそのぶん、内的な哲学や宗教的な洞察に満ちた領域でもある。愛と知恵と栄光に包まれたこの天上の旅路を、少しでも楽しく読んでもらえれば嬉しい。
読者よ、どうか目が眩まずについてきてほしい。これは世界文学最大の古典『神曲』なのだから。
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