ダンテ【神曲】まとめ(25)〜「天国篇」第4歌・第5歌・第6歌
「天国篇」シリーズの第2回。地獄や煉獄と違って、天国界は登場人物の姿も背景も「まばゆい光」ばかり。ダンテとベアトリーチェの会話もキリスト教教義が中心で、正直ちょっと退屈かもしれない。
だが、美しい比喩や哲学的な引用、時折登場する歴史的な人物の語りなど、読みどころもきちんとある。今回はその“光る部分”だけを抽出して、あなたを天国の旅へといざなう。
第4歌〜プラトン『ティマイオス』と魂の宇宙
ダンテは月光天でベアトリーチェと再び対話する。その中で話題に上るのが、古代ギリシャの哲学者プラトンによる宇宙論『ティマイオス』だ。
この書では、宇宙(コスモス)は「魂と理性を持った生き物」とされる。世界は数と形によって創造され、五つの正多面体が四大元素(火・水・空気・土)を構成し、秩序正しく組み合わされているという壮大な世界観が描かれている。
また、星々はただの光ではなく、生きた神々であり、私たち人間の魂はその星の影響下にある。良い生を送った魂は、自分の星へと帰り、悪しき魂は冥府へ堕ちる──まるで星が魂のふるさとのように。
プラトン『ティマイオス』覚書――宇宙と魂をめぐる幾何学的神話
第5歌〜水星天とヘルメスの光
対話が終わると、ベアトリーチェがある方角に顔を向け、その瞬間、彼女とダンテの姿は光の中で変容する。気づけば、彼らは第2の天「水星天」にいた。
水星(Mercurius)は、ギリシャ神話のヘルメス、そしてエジプト神話のトート神と結びつき、錬金術では「ヘルメス・トリスメギストス」の名で知られる神秘的存在でもある。
光の群れが池の餌に集まる魚のように、ダンテの周囲へと一斉に集まってくる──その中のひとりが、歴史的な大人物として語り出す。
第6歌〜皇帝ユスティニアヌスの告白
話しかけてきたのは、東ローマ帝国の偉大なる皇帝ユスティニアヌス。彼は6世紀にローマ法を体系化し、「ローマ法大全」を完成させた法の巨人だ。
政治だけでなく、ビザンティン文化の擁護者としても名高く、かのハギア・ソフィア大聖堂(現イスタンブール)を建てた人物としても知られている。
彼の語りは、ローマ帝国の使命、キリスト教との関係、そして戦いと統治の意味についての壮大なモノローグである。
ハギア・ソフィア大聖堂(ユスティニアヌスの事績)
【ハギア・ソフィア】学術調査団研究成果報告会報告集2001.3.20(非売品・古書)レビュー
まとめ:さらに高く、さらにまばゆく
天国界の旅はまだ始まったばかりだが、すでに登場する思想や人物たちは地獄・煉獄とはまったく異なる次元にある。
これから先、どれほどの光が降り注ぎ、どれほどの魂がダンテに語りかけるのか。読者である我々も、まばゆさに目を細めながら、この天の旅をともに歩んでいこう。
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