ダンテ『神曲』天国篇 第25〜27歌|月桂冠の夢とアダム、原動天の到達

ダンテ【神曲】まとめ(32)〜「天国篇」第25歌・第26歌・第27歌

抽象的なテーマが続く「天国篇」も、いよいよ核心に迫ってきた。信仰、希望、愛というキリスト教三元徳がそれぞれ問われ、最終章「至高天」直前の“精神的関門”が始まる。詩人ダンテの魂はさらに高みへ──。

第25歌〜月桂冠と信仰の問い

ダンテは、いつの日か故郷フィレンツェに戻り、詩人として月桂冠(ラウレアート)を授かることを夢見る。するとそこへ使徒ヤコブが現れ、「希望」について問う。

ダンテが満足のいく答えを述べると、魂たちが美しい歌声で彼を祝福する。そしてもう一人の使徒、ヨハネが現れる。伝説によれば、彼は殉教を免れ、肉体のまま天に上ったとされる人物だ。

ダンテは、その光の中に“肉体”があるのかを見極めようとして凝視するが、あまりのまばゆさに目をやられ、ベアトリーチェの姿さえ見えなくなってしまう。

第26歌〜アダムと愛の対話

ダンテは視力を失ったまま、不安におののく。だがベアトリーチェは、母のようにやさしく彼を励まし、やがて視力はゆっくりと回復する。

続いてヨハネが「愛」についての問答を仕掛ける。愛・光・永遠──現代ではJ-POPの歌詞にありふれたワードかもしれないが、ここでは真剣な霊的対話として描かれている。

そして目が見えるようになったダンテの前に、ついに人類最初の人間、アダムが現れる。アダムは自らの物語──創造・堕罪・追放・死後の遍歴──を語る。

  • エデンの園にいた時間は、たった6時間半
  • イヴの誘惑で楽園を追われる
  • 930歳で死ぬまで地上で生き、さらに4300年をリンボ(辺獄)で過ごす

この数字の扱いは極めて中世的で、天地創造からキリスト誕生までを5200年と見なす学者たちの逆算によるものだ。

◯アダム以降の楽園追放と「サタン視点」での叙述は、ミルトン『失楽園』でも描かれている: → 【失楽園レビュー】ジョン・ミルトンとサタンの詩―盲目の詩人が描く“堕天”と人間の運命

また、アダムが長年を過ごしたリンボについては「地獄篇」第4歌に詳しい。 → ダンテ『神曲』解説(3)地獄篇:リンボの賢者たちと情欲・暴食の罪

第27歌〜原動天と地上との別れ

聖ペテロの裁きを求める激しい叫びが天を震わせ、恒星天は赤く染まる。その光景に圧倒されながら、ダンテは地球をもう一度振り返る。

そしてベアトリーチェのまなざしに導かれ、ついに天国界第9天「原動天(プリモ・モービレ)」へと登る。ここは宇宙を回転させる目に見えぬ力──すなわち「愛」が宿る場所。

ここは車で言えばエンジン。すべての天体の運動の源であり、至高天に最も近い場所でもある。いよいよ、神の本質へと迫る最終領域に到達するのだ。

まとめ:信仰・希望・愛の三元徳を超えて

信仰、希望、愛──三つの問答を終えた今、ダンテの魂はもはや地上とは断絶された存在となった。

詩人としての誇り、哲学者としての思索、そして人間としての情熱を持ちながら、神の中心へと向かって昇っていく。

次回、いよいよラスト2回。世界文学史上最大の詩の結末へと、読者もまた同行しよう。

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