ダンテ『神曲』天国篇 第22〜24歌|双子座と信仰の試練、聖母の幻視

ダンテ【神曲】まとめ(31)〜「天国篇」第22歌・第23歌・第24歌

『神曲』天国篇もついに終盤に差し掛かる。魂の高みを目指す旅は、天文学・信仰・神話が交錯する星々の領域へ──。目まぐるしくも美しい宇宙の詩を、今しばし追いかけていこう。

第22歌〜ダンテ、星座の故郷に帰る

土星天で魂たちの聖なる叫びに圧倒されたダンテを、ベアトリーチェが優しく励ます。聖ベネディクトゥスは堕落した修道院を嘆き、魂たちはつむじ風のように天へと昇っていった。

ダンテは彼女に導かれて「恒星天(第8天)」へと入る。そこでは無数の星が瞬き、地球は遠く小さく見える。そして、その星座の一つに「双子座(ジェミニ)」──ダンテ自身が生まれた星座があった。

詩人としての才能を授けてくれたこの星に、ダンテは「ただいま」と心のなかで呼びかける。占星術が信じるか否かは別として、星座という存在は確かに天空に輝いている。

第23歌〜聖母とガブリエルの幻視

ベアトリーチェは天を仰ぎ、ダンテもその視線の先を追う。するとそこに、栄光に満ちたキリストが凱旋の車に乗って現れ、昇天していく。そしてその後を追うように、聖母マリアの光が輝く。

大天使ガブリエルが舞い降り、マリアに冠を授ける。彼は旧約『ダニエル書』に登場し、新約では「受胎告知」にてマリアのもとへ神の言葉を告げに来た天使でもある。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』

レオナルド・ダ・ヴィンチ『受胎告知』

キリストとマリアが至高天へと昇る光景は、まさに天界の神秘を可視化したような幻視である。

第24歌〜聖ペテロと信仰の問答

恒星天にはキリストの十二使徒の一人、聖ペテロ(ピエトロ)が現れ、ダンテに「信仰とは何か」を問う。ペテロは聖書において教会の礎とされ、鍵を持つ者──天国の門番としても知られる存在である。

ダンテは三位一体の信仰について、見事に答えきる。三位一体とは、父(神)・子(キリスト)・聖霊の三つが不可分にして一体というキリスト教の根本教義である。

その答えに感銘を受けた魂たちは、ダンテの周囲を三たび回って歓喜の祝福を与える。「3」という数は『神曲』の全体を貫く聖なる数であり、この場面もまた三位一体へのオマージュである。

ちなみに現代では、家系ラーメンで「ニンニク・ライス・海苔」が三位一体だとか言ったりするが、本来はもっと重い神秘の象徴なのである。

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まとめ:星々の向こうへ

恒星天におけるダンテの体験は、宇宙的な広がりと神秘の幻視に満ちている。己の星座に触れ、聖母の光に包まれ、信仰の試練を乗り越える──

旅は残りあと3回。次なる天界は宇宙の原動力「原動天」、そしてその奥に待ち受ける「至高天」。果たしてこの“クソ長い”詩は、どんな結末を迎えるのか──?

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