ダンテ『神曲』天国篇 第16〜18歌|追放の予言と木星天の歓喜

ダンテ【神曲】まとめ(29)〜「天国篇」第16歌・第17歌・第18歌

舞台は火星天──光る十字架の中心から、ダンテの高祖父カッチャグイダが再び口を開く。血の記憶と予言、そして人間世界への警句が、火星の光の中で鳴り響く。

第16歌〜田舎者と堕落の都市

カッチャグイダは、自らの時代のフィレンツェがいかに高貴で、現在のそれが「成り上がり者=田舎者」たちによって堕落させられたかを熱弁する。

この怒りは現代にも通じる「没落した都市エリートの嘆き」かもしれない。そしてふと、三島由紀夫の「田舎者」嫌いが思い起こされる。

三島は太宰治を「田舎臭い坊ちゃん」と揶揄し、谷崎潤一郎のような都会派作家を美の基準とした。泉鏡花にすら「田舎の匂い」を感じ取っていたほどである。

田舎も都会もない──とは理想だが、人はどうしても血筋や出自に誇りや劣等感を見出してしまう。そして『神曲』でさえ、そこに厳しい視線が注がれているのである。

第17歌〜追放の予言と詩の真実性

カッチャグイダは、未来のダンテに起こる悲劇──すなわち故郷フィレンツェからの追放を予言する。ダンテはこの追放により放浪し、最終的にはラヴェンナで生涯を終えることになる。

この章ではまた、なぜ『神曲』に有名人ばかり登場するのかという疑問への答えも語られる。それは「詩に現実味と信頼性を持たせるため」であり、物語が寓意に終わらぬよう、実在する人物を通して「信じうる真理」としたのだ。

第18歌〜木星天の白い光と歓喜の文字

火星の赤い光が遠ざかると、ダンテたちは木星天に到達する。そこはより広く、白い光に包まれた領域だった。

木星はローマ神話の主神ユピテル(=ギリシャ神話のゼウス)にちなみ、「秩序と正義」を象徴する天界である。そこに現れる魂たちは、まるで小鳥の群れのように優雅に飛び回る。

ここで思い出されるのが、ウィリアム・ブレイク『天国と地獄の結婚』の一節:

How do you know that every birds that cut the airy way,
Is an immense worlds of Delight, closed by your senses five?

──「空を翔けるすべての鳥たちが、君の五感に閉ざされた無限の歓喜の世界であると、どうして分かるのか?」

木星天の魂たちは、光の文字を空中に描いて神を讃え、やがて鷲の頭の形をした隊列をつくってダンテを迎える。

まとめ:追放と飛翔、苦難と歓喜

血筋への誇り、都市の堕落、予言される追放──火星天では個人的で痛烈なテーマが語られる。

だが木星天では一転して、秩序ある光の世界、神への讃美、そして調和と歓喜が描かれる。

この緩急と対比こそ、ダンテの詩の妙味。現実と理想の両極を行き来する旅の中に、天国篇の豊かさがあるのだ。

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