地震はなぜ起こるのか?|アリストテレス『気象論』と古代の予知思想を読む
“古代ギリシア最高の知性”とも称されるアリストテレス。その著作『気象論』では、雷や風、雨だけでなく「地震」までもが扱われています。本記事では、この古代の哲学者が地震をどう捉え、どのように予測可能と考えたのかを紹介していきます。
アリストテレスの宇宙観
まず出発点は、アリストテレスが構想した〈天動説的宇宙論〉です。彼によれば宇宙には「上」と「下」が存在し、不動の地球は宇宙の中心に鎮座し、その周囲を天体が円運動しています。
宇宙は地球を中心とする同心円の構造を持ち、外側へ行くほどより強い運動の力が働く。すべての運動は〈場所〉の中で、より強いものによって引き起こされる――これがアリストテレスの基本的な自然観です。
そしてこの宇宙構造の中で、地球の大気圏――月より下の領域――においては〈生成と消滅〉が起こり、ここで「気象現象」が生じる。『気象論』は、この変化の領域で起こる諸現象を体系的に説明しようとした書物です。
地震とは何か?
ではアリストテレスは地震をどのように理解していたのでしょうか。
彼によれば、天体の運行が引き起こす大気や海の影響によって、さまざまな〈風〉が地球上に生じる。そしてこの風が、地表に空いた穴や洞窟のような場所から地下へと吹き込む。強い風が地下空間でぶつかり合い、圧力や反発によって〈振動〉が生じ、結果として地表が揺れる──これが「地震の原因」である、と説くのです。
現代の地震学から見ればもちろんこの説は科学的とは言えませんが、当時としてはきわめて体系的かつ理性的な説明であり、雷や火山もまた「空気の激しい動き」として捉える思想の一環でした。
星と災害の関係──予知は可能か?
アリストテレスはさらに一歩進んで、地震を〈予知可能〉な現象と考えました。
なぜなら、弱いものは強いものによってしか動かされないという彼の原理に従えば、地上の現象はすべて〈天体の動き〉に起因する。つまり、空に現れる〈星々の徴候〉を観察することで地震や災害を予測できるというのです。
たとえば、大地震の前には流星や彗星がしばしば目撃されると述べ、それを多くの天文学者の観測と結びつけて「天界と地上の相関関係」を説明しました。
現代科学との交差点
こうした古代的宇宙論には一笑に付したくなる部分もあるかもしれませんが、アリストテレスの思索には現代と重なる部分も確かに存在します。
たとえば、潮の満ち引きは月の運行による引力の作用であるという理解や、季節の変化が太陽の動きと密接に関連している点など、彼が観察と理性によって導いた知見は、現代科学の萌芽とも言えるでしょう。
また、地球の表面の大半が水であることを踏まえれば、気象や風の大部分が海洋の影響を受けているという見方も決して間違いではありません。
まとめ:風が地を揺らすとき
アリストテレスによれば、地震とは「天界の運動に影響された風が地下へ潜り込み、衝突と圧力によって地面を揺らす現象」であり、星の動きを観察することで予知が可能とされます。
こう聞くと一種のオカルトにも思えますが、そこにあるのは神秘主義ではなく、〈自然界の一貫した理〉を求める古代哲学者の真摯な姿です。
科学的知識が未熟だった時代に、ここまで理論的に自然を把握しようとした思考こそ、現代人が見直すべき“知の冒険”なのかもしれません。
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