戦場の英雄が語る、三島由紀夫と「関ノ孫六」
今回は図書館で特別に取り寄せてもらった絶版本『関ノ孫六』のレビューです。都市部では常に予約中の人気作で、古書でも高値。三島由紀夫関連の書籍を立て続けに借りているため、さすがに地元の図書館スタッフにも顔を覚えられてきた気がします 🙂
著者:舩坂 弘とは何者か
舩坂 弘(1920-2006)は、戦場で「不死身の分隊長」と呼ばれた伝説の軍人。戦後は渋谷・大盛堂書店の経営者としても知られ、個人として唯一『戦史叢書』に名を残す人物です。三島由紀夫と深い交流を持ち、その死に用いられた日本刀「関ノ孫六」を贈ったのも彼でした。
物語の始まり:衝撃のニュースと回想
本書は、1970年11月25日の三島由紀夫の自決という衝撃的な出来事を出発点に、警察の取り調べを受ける著者が過去の思い出を回想していくという、意外に文学的な構成になっています。
三島との初対面は戦後間もない頃。父・平岡梓に連れられた青年・平岡公威(三島の本名)は、大盛堂をしばしば訪れる常連客でした。やがて剣道道場でも再会し、親交を深めていきます。
「英霊」と「関ノ孫六」
二人はともに「英霊」をテーマにした著作を手がけます。三島の『英霊の声』に呼応するかのように、舩坂は『英霊の絶叫』を執筆。原稿を見た三島は、感動のあまり20枚の序文を寄せるという厚遇を示します。その謝意として、舩坂は三島に自身の愛刀「関ノ孫六」を贈ったのです。
◯舩坂弘『英霊の絶叫』レビュー/三島由紀夫『英霊の声』レビュー
刀匠の墓参りと三島展
物語は、刀を打った金子孫六の墓参りから始まります。関ヶ原の戦いでも知られる美濃・関市の梅龍寺を訪れ、著者は酒と花を供え、住職に供養を依頼します。
そして、三島が昭和45年に開催した「三島展」の展示についても触れられます。目玉として展示された関ノ孫六は、なぜか軍刀仕様に改造されており、著者は不穏な違和感を抱きます。
剣道と“病は気から”の実践
剣道を通じて深まる二人の絆。舩坂は、身体に弾丸の破片を多数抱えながらも、息子の手前、地獄のような初日の稽古をやり抜き、驚くべきことに長年の神経痛が消えたことから剣道を続ける決意を固めます。
武士の魂としての刀
ある日、舩坂は三島にこう尋ねます。「あなたは日本刀をお持ちですか?」三島は「骨董屋で買った鈍刀しかありません」と答え、やがて関ノ孫六を受け取るに至るのです。刀は物ではなく魂。著者は、その魂を三島と共有したいと願っていたのです。
神風連と白虎隊
三島が買った鈍刀は、「豊穣の海」第二巻『奔馬』の取材で熊本を訪れた際に入手したもの。神風連の乱――明治初期、武士たちが日本刀で近代兵力に突撃し斃れた事件――を記録するためだったのです。
舩坂が贈った二本のうち、三島が選んだのは長く、戦傷のある刀。由来は不明ながら、会津の白虎隊のものである可能性があり、浪漫と哀切が込められたエピソードです。
日本刀の切れ味とは
刀匠を訪れた著者は、日本刀の切れ味の秘密を問います。その答えは「折り返し鍛錬」。15回折り返すことで3万枚以上の鋼層が形成され、それが唯一無二の切れ味を生むのです。
自決と「関ノ孫六」の真相
メディアは「刀がS字に曲がった」と報じましたが、著者の証言では刀は無傷。証拠写真とされた画像に写るベルトを誤認した可能性が高く、証明書からも後代の孫六作であることが明らかです。
覚悟と責任
三島は「目釘」を潰し、刀が抜けぬように細工した上で、自らすべての証明書を現場に持参しました。それは、贈った人を煩わせないため。すべてに責任を持つ、まさに「武士の覚悟」だったのです。
まとめ:現代日本への問い
最後に、著者の言葉を引用します:
「戦後、自由を得たはずの日本人が、実は自由に渇望している。
互いに足を引っ張りあい、自己中心に生きるその様は、まるで地獄絵図のようである」
◯三島由紀夫作品レビューまとめ→当サイトによるオリジナル版
◯Amazonリンク(絶版)→関ノ孫六―三島由紀夫、その死の秘密 (1973年)
コメント
三島由紀夫の自決に使われた「関の孫六」は夫の祖母の実家にあった物で、
蔵に保管してあった物を盗まれた物です。
場所は福島県会津です。盗まれた時は大騒ぎになったそうです。
また、三島由紀夫が自決した時に長い間行方不明だった「関の孫六」と分かり、
また大騒ぎになったそうです。
何故、親類達が盗まれた刀と分かったのか不思議でしたが、この著者のインタビー記事を読んだのではないか、と思いました。
舩坂氏の本では刀の出所について、三島氏と想像逞しゅうする部分しか書かれていないですが、コメント者様の関係する刀だとしたら大ニュースでしょう。
またもし盗まれたとしたらどんな泥棒がやったんでしょう。鑑定書ごと盗るなんて賢いですね。また三島氏も泥棒が金のために盗んだと知ってたら、大義のためにその刀で首は切らなかったと思います。
刀の来歴を、詳しく、教えていただければ幸いです。
お読み頂いてどうも有難うございます。何分かなり以前に読みましたので詳しい内容は忘れました。
アマゾンでは古書で5000円以上するようですので、より安いものを探してお読みいただくか、やはり図書館で借りてみるのがよろしいかと思います。
同じ著者の『英霊の絶叫』は安価に手に入りますので、こちらも参照されればより理解が深まります。
この本は三島の短編『英霊の声』と同じ時期に書かれたものです。どちらも当ブログにてレビューしております。
よろしくお願いいたします。