【 COMPENDIUM MALEFICARUM】グアッツォ『悪行要論』の洋書を紹介。魔女狩りの教科書

評論
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フランチェスコ・マリア・グアッツォ『悪行要論』:中世悪魔学の古典と現代への問い

1. 書籍の概要

『悪行要論』(Compendium Maleficarum)は1608年に刊行された、魔女術と悪魔学に関する著作である。著者はアンブロジオ修道会士フランチェスコ・マリア・グアッツォ。本書は当時の教会公認の元に出版され、挿絵を多用しながら魔女の所業とその対抗手段を記述している。

筆者が読んだのはDover社の英訳版。モンタギュー・サマーズによる注釈付きで、同社のオカルト・クラシックスシリーズの一冊である。原典に忠実な構成と図版が魅力だ。

2. 言語的な特徴と読解の挑戦

本書の英語は古風で修辞的な文体が多く、また聖書・ラテン語・法廷用語が頻出するため、辞書が欠かせない。筆者はジーニアス英和辞典を利用し、文中の多くの語彙や句を一つひとつ確認しながら読み進めた。語学教材としても密度が高く、信仰語彙や中世的世界観に基づく英語表現の宝庫である。

3. 内容と思想的主張

『悪行要論』は、魔女が悪魔と交わす契約、魔術の行使、変身術、悪魔憑きといったテーマを網羅し、膨大な引用と記録を交えて展開される。全体の構成は事例カタログのようで、読者は当時の人々の“信じていた現実”に触れることになる。

注目すべきは、悪魔に対抗する手段としての「信仰」が一貫して強調される点である。神の言葉、教会の秘蹟、聖職者の祈祷こそが唯一の防衛手段として位置づけられ、本書は信仰の実践を読者に強く促す。

4. 現代における意義

現代社会において『悪行要論』を読むことは、魔女狩りや宗教的狂信を笑うためではない。むしろそれは、人間がどのように“見えない不安”と向き合ってきたかを学ぶ機会である。

悪魔という存在を信じるか否かに関係なく、そこに映し出されるのは「恐怖」「倫理」「秩序」といった普遍的テーマだ。マンディアルグや三島由紀夫が描いた“魔”のイメージとも通じる、本書の思想的含意は、21世紀の読者にも知的な刺激を与えてくれるはずである。

参考リンク

聖と魔、信仰と理性。その狭間で揺れる人間の姿を、『悪行要論』は今なお強烈に浮かび上がらせる。


この記事は中世ヨーロッパの魔女観・宗教観に基づく歴史的著作を紹介するものであり、現代の科学的立場や倫理的評価とは異なる部分があります。ご理解の上、お読みください。

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