メタリカ『Garage Inc.』──ルーツをむき出しにした36曲の「告白」

1998年、メタリカは突然“オリジナルを一切やめて、全部カバーだけ”という暴挙に出た。『Garage Inc.』。2枚組・全36曲。これが単なる遊びでないことは、1曲目のDischarge「Free Speech for the Dumb」を聴いた瞬間に分かる。重い。速い。荒い。それでいて、彼ら自身の音そのものになっている。

このアルバムは「ルーツをひけらかす」どころか「俺たちはこういう血でできている」とさらけ出す告白書だ。

Garage Inc.　メタリカ

Disc 1──1998年新録カバーの衝撃

Black Sabbath、Bob Seger、Misfits、Nick Cave、Mercyful Fate、Blue Öyster Cult…。ジャンルも時代も関係なく、メタリカが影響を受けた音楽を自分の武器で再構築していく。

代表曲「Turn the Page」（ボブ・シーガーの名曲）は、原曲のアメリカン・ロードムードを捨て、ひりつく孤独感と暗さに塗り替えた。シングルヒットした「Whiskey in the Jar」では、Thin Lizzyの陽気さを真っ黒に歪めている。

ここには90年代後半のメタリカの葛藤がそのまま刻まれている。メタルエリートに叩かれ、オルタナ世代に揶揄され、居場所を探していた彼らが「結局、俺たちはこれで育ったんだ」と突き付けてきたのだ。

Disc 2──過去のカバー総集編

2枚目はファンにはお馴染み、『Garage Days Re-Revisited』やB面曲を一挙収録。Diamond Headの「Am I Evil?」やBudgieの「Breadfan」は、すでにライヴで鉄板化していた名演。モーターヘッド曲を4連発でぶち込むあたりも“原液ストレート”な開き直りが痛快だ。

ジャンル別に見える「メタリカの体内地図」

• NWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)の洗礼：Diamond Head、Blitzkrieg、Sweet Savage

• ヘヴィメタルの古典：Black Sabbath、Blue Öyster Cult、Queen、Budgie

• パンク／ハードコアの毒：Misfits、Discharge、Anti-Nowhere League、Killing Joke

• モーターヘッド直系：速さと土臭さを同時に輸血

• アメリカン・ロックの影：Bob Seger、Lynyrd Skynyrd、Thin Lizzy経由のトラッド

• 異端の選曲：Nick Cave、Mercyful Fate

こうして並べてみると、メタリカの“体内地図”が浮かび上がる。スラッシュの刃はNWOBHMとパンクから削り出され、重さはサバスから受け継ぎ、スピードと泥臭さはモーターヘッド。そこにアメリカの土着性が混ざることで、唯一無二のメタリカになったのだ。

総括

『Garage Inc.』は、メタリカにとっての「教科書」でも「原点回帰」でもない。もっとえぐい。“俺たちはパクリから始まったし、その血でここまで来た”という自己暴露だ。

オリジナルを封印してまで放ったこのアルバムは、当時のファンには混乱を与えたが、今あらためて聴くと、むしろメタリカの中で一番「誠実な」作品かもしれない。