第13歌〜星座
ダンテは天国界第4天である太陽の中にいた。「神学大全」の著者トマス・アクイナスの話が続く。そのうち太陽天の二つの日輪がそれぞれ夜空の星座のような動きを始める。冠のように輝いている日の輪は12人ずつの魂で構成され、合計24人の魂たちが調和のとれた舞踏をするのだった。
トマス・アクイナスの話は、棘だらけの枝が冬の終わりに一輪の薔薇の花を咲かせることがあるという譬え、そして港に着く寸前で沈没する船の譬えをもって締めくくられる。これは人が何か決める時にとるべき慎重な態度について諭したものと思われる。
第14歌〜ソロモン
太陽天の内側の火の輪で賢者ソロモンの魂がひときわ輝く。ソロモンは紀元前10世紀のイスラエルの王で、旧約聖書に「ソロモンの知恵の書」というのがある。また「列王記」(Kings)にも記録がある。
この王は伝説的存在で話が色々伝わっている。賢者だったが老年自堕落な欲望に走って少女の肉体に溺れたとか、「ソロモンの鍵」と呼ばれる魔術書もあるくらいである。
エチオピアの美しいシバの女王はソロモンの知恵を聞くためにわざわざエルサレムまでやってきて、期待通り都市の繁栄と知恵に驚かされたのである。
そのソロモンが最後の審判のあとに死者が復活する時、天国の魂がどのように再び肉体を纏うかについて話をした。
火星天
導女であるベアトリーチェの微笑がいっそう燃え上がったと見るや、ダンテは次の天界へ瞬間的に移動した。そう、火星天へ二人は着いた。火星はラテン語でマルス(Mars)、ギリシャ神話でいう戦争の神アレスの名が付いている。
太陽から4番目に近い距離の惑星で、公転軌道が地球の外側だそうである。科学が発達した現代、人口探査機がその地表の驚くべき映像まで捉えている。さてここには殉教者の魂が巨大な十の字形に集まり、直交する高速道路上の光の群れのように動いていた。
その眺めがあまりにも神聖であったためダンテはベアトリーチェのことも忘れてしまうほどに感動する。そんなダンテをベアトリーチェはむしろ心から喜ぶのだった。
第15歌〜カッチャグイダ
光の十字架の右から下方へひとつの流れ星が飛んできた。それはカッチャグイダの魂である。彼は十字軍かどうかは知らないが騎士だったので、イスラム教徒との戦いで殺され殉教者の仲間入りを果たした。
このようにイスラム教が悪者・異端邪説扱いされているのが「神曲」の特徴である。ちなみに聖典である「コーラン」の教祖マホメット(ムハンマド)は、地獄の第八圏の9番目(ややこしくて申し訳ない)の悪の濠(マレボルジェ)で身体を真っ二つにされたまま内臓を垂らしている。ラヴェンナにあるダンテの墓がイスラム国(ISIS)に狙われたことがあるのもこのためである。
●マホメットがいる「地獄篇」(第28歌)はこちら→ダンテ【神曲】まとめ(11)〜「地獄篇」第28歌・第29歌・第30歌
まとめ
火星は色々とSF的想像を掻き立てる惑星であり、生命がいるとかいないとか、人類の移住もしくは旅行計画があるなど話題が尽きない。
「神曲」ではその星が殉教者の住まいとなっており、光る十字架が輝いているのである。むろん火星探査機にそんなものは映ってない。なので「神曲」を中世ヨーロッパの迷信が生んだ産物と一笑に付すことも可能である。
だが気をつけ給え、それが悪魔の進化した欺きの方法かもしれない。火星探査機の映像がどうだかわからないが、その映像を見るのは自分の肉眼である。視覚を感知するのはさらに頭蓋骨内の脳髄。そんな所に魂の真実があると思うのだろうか。