映画『ルーム』レビュー|閉ざされた10㎡の中で生まれた愛と自由の物語
2016年公開の映画『ルーム』は、同名小説を原作にした感動の人間ドラマです。アカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞し、多くの人の心を揺さぶりました。辛口な筆者もベスト5に入れるほどの傑作です。
「部屋」という世界
舞台は10㎡にも満たない小さな部屋。ここで暮らすのはママと5歳の息子ジャック。最初はソリッド・シチュエーションのような緊張感が漂いますが、物語はホラーではありません。むしろ母子の絆と成長、そして解放の物語です。
唯一の光源は天窓から差し込む自然光。そんな過酷な環境でも、ジャックは無限の空想力で部屋を“世界”に変えていきます。「ハムレットの台詞」のように、狭い空間でも彼の心は自由でした。
誘拐という現実
次第に明かされる衝撃の真実。母親は17歳のとき誘拐され、庭の納屋に監禁されていたのです。そしてジャックは、その犯人との間に生まれた子でした。
広がる世界
母はジャックが5歳になったとき、外の世界の存在を教えます。最初は受け入れられなかったジャックですが、母のため、そして自分のために脱出を計画します。
「死んだふり」をしてトラックに運ばれる——そんな劇的なシーンで彼は初めて“空”を見て、自由を手に入れます。警察の協力で母も救出され、ようやく彼らは部屋の外の世界へ。
自由の重さ
脱出後、彼らは祖母の家で暮らし始めますが、自由の世界に順応するのは簡単ではありません。母は情緒不安定になり入院。ジャックもまた、部屋とは違う“広さ”に戸惑います。
救いとなったのは、一匹の犬との出会い。そして髪を切って“パワー”を母に渡すという決意が、彼の心を少しずつ変えていきます。
ラストシーンと別れ
物語の最後、彼らは再びあの「部屋」を訪れます。かつての恐怖と愛情が混じった空間に別れを告げるために。ジャックは一つひとつの家具に「さよなら」と言い、母も促されるように最後の別れを告げます。
まとめ|“部屋”は子宮、そして神聖な原風景
『ルーム』は閉ざされた空間がいかに人間の記憶と精神に影響を与えるかを描いた作品です。ジャックにとってあの部屋は、世界のすべてであり、神の慈愛に満ちた“原初の宇宙”でした。
この作品は、うつ状態や引きこもりといった現代のメンタルな問題に対しても、一筋の光を投げかけてくれる映画です。絶望の中で人はどう希望を見出すのか——そのヒントがここにあります。
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