ダンテ【神曲】まとめ(4)〜「地獄篇」第7歌・第8歌・第9歌

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さて神曲の地獄篇レビューもだんだん佳境に入ってきた。

意外と面白くなるのはこの辺りからだ。

第7歌〜4つ目の谷

第4の谷に入るとプルートンという化け物らしきキャラクターがダンテとウェルギリウスを出迎える。このプルートンについての詳しい描写もなく説明もない。譬えから見て船の帆くらいの大きさらしく、学者による確かな解釈も不明な言葉を叫んでいる。

「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ」(Papé Satàn, papé Satàn aleppe)

である。意味不明な言葉の代表のような語句である。

ウェルギリウスの一喝だけでプルートンを倒すと、けちん坊と浪費家が互いに逆方向に重たい荷物を転がし合い、出会っては罵り殴り合うという光景を眺めた。これをひたすら繰り返しているのだった。またこの世の富は運命の女神が回しているとの説明がウェルギリウスから語られる。映画「パイ∏」を思い出してほしい。天才数学者マックスは市場の動向をコンピューター解析と円周率の解明により法則を見出そうとしたが、最後にドリルで自分の頭蓋骨に孔を開けた。

●映画「パイ」についてはこちら→映画「パイ」 鬼才【ダレン・アロノフスキー】レスラー、ブラック・スワン監督処女作

第8歌〜ディース市の塔

怒り狂ってその中で溺れている亡者たちで溢れる沼、ステュクスへとさしかかった二人の元に船頭プレギュアスがCGのような速さで岸辺にやってきた。第3の歌で出てきたのはアケロン川であり、その時の渡し守カロンとは違うので注意だ。場所は地獄の第5の谷である。

プレギュアスの舵の元に二人はステュクスを渡った。灼けた鉄のような城壁が谷をぐるりと囲い込み、真っ赤に灼けたような建物の丸屋根が炎の中に浮かび上がっていた。

岸に着くとそこはディース市という地獄の塔の足元で、なんと1000体以上の悪魔が待ち受けていた。師匠である先達のウェルギリウスの交渉も空しく、悪魔たちは市の門を硬く閉ざし閂をかけてしまった。

第9歌〜第6の谷へ

塔のてっぺんに3人の復讐の女神エリーニュスらが血まみれの姿で起き上がった。恐るべき女神らは城壁を見下ろしながらメドゥーサの名を呼んだ。それを聞いたウェルギリウスはダンテの瞼を手で覆い、石にされてしまうぞと諭す。誠に不可解な詩句でありギリシャ神話がダンテの想像の中で自由にミックスされている。ダンテ自身読者にこれらの不思議な文章の意味を悟るように頼んでいる。

メドゥーサは頭髪が蛇の美女であるがその眼を見た者は石と化す。彼女はアテナの神殿で海神ポセイドンと交尾しており、それでアテナの怒りを買いそのような怪物に変えられたのだった。やがて英雄ペルセウスがアテナの盾アエギスを借りてメドゥーサの首を切り落とし退治した。しかし復讐の女神たちはテーセウスのことを怒っており、ここでも意味が錯綜している。

テーセウスが退治したのはダイダロスの迷宮にいたミノタウロスなので、メドゥーサではないはずである。富士の樹海よりもはるかに脱出不可能のラビュリントスへ、テーセウスはアリアドネーの赤い糸を頼りに潜入し見事に牛頭の怪物を殺したのだった。

さて天から強力な使いが降りてきてディースの門はあっさりと開いた。二人は引き続き第6の谷へと足を踏み入れていく。そこには火が吹き出す墓穴の中で嘆く異端者どもらがいた。

●これまでの記事はこちら→ダンテ【神曲】まとめ(3)〜第4歌から第6歌ダンテ【神曲】まとめ(2)レビューシリーズ:地獄篇第1歌〜第3歌ダンテ【神曲】まとめ(1)レビューシリーズ開始〜第1歌より、今回は序

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