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【マンディアルグ】小説「大理石」に隠されたシュルレアリスティックな秘密

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題名

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ(1909−1991)はフランスの作家・詩人。1953年に出版された「大理石」(marbre)を初めて私が読んだのは、二十歳の時1991年のことだった。人文書院のハードカバーの本で、澁澤龍彦・高橋たか子の訳はとても読みやすかった。当時インターネットもアマゾンも無かったから、目新しくて珍しい読み物は神田神保町の本屋街にわざわざ出向いて探したものだ。本のタイトルを見ても内容は全然分からないのに、なぜ「大理石」を買ったのかはあまり覚えていない。

ネットに記事を載せるときは内容がよくわかり、人を集めやすいタイトルを付けるというのが鉄則である。「大理石」という本のタイトルは作者が付けたものであるが、内容も難解なら題名の意味すら解読しにくいと言っても過言ではない。芸術作品とネット記事では存在意義が比較にならないのだ。マンディアルグはまたそのポルノグラフィック小説に「イギリス人」というタイトルを付けている。このタイトルからどこがポルノを連想させるだろうか?

このようにマンディアルグ氏は群衆を煙に巻く傾向がある。それはシュルレアリスムのデペイズマン手法に共通している。

肖像

その頃私の城だった高円寺の4畳半アパートに帰り、表紙を開くと出版当時と思われるモノクロの肖像写真が載っていた。

「悪魔のようだ。なんて冷たい顔だ。」それがマンディアルグの肖像の初見だった。

頭はうっすらと手前がハゲかかり短いトサカのように後ろ髪が輝いている。膝の上にそっと置かれた指はなんて細長いのだろう。座っているのは寝台だろうか?体にかかっている地球の重力を右手で支え、その手は手下の悪魔どもを封じ込めているかのようだ。片目は至高のイデアの存在を観照し、もう片方の目で死の馬を駆って血を求め疾走しているように見える。耳が長くてピンと立っているところも悪魔に見えた原因だろう。

しかし本を読み進めるうち不思議と氏の顔の印象が変わってきた。なんて優しい人なのだろう、と。そこで私は一見優しそうに見えて実は残酷な人よりも、外見は冷たいのに心は優しい人の方が善良であるという一般論を思い出した。若かった私はこの本の意味や内容が解明できず理解したくて何回も読んだ。パズルに挑む青年のように。

半神(デミ・ゴッド)

芸術家は歴史・国々に吐いて腐るほどいるが、その中に神が混じっていることがある。正確に言えば半神(デミ・ゴッド)である。ジョン・ミルトン「失楽園」でも語られている半神(デミ・ゴッド)の見分け方として、読んでいると人間離れした凶暴な怪物・凶悪な狂気がときたま現れるアーティストがいる。それが半神である。

私は本の第一部「ヴォキャブラリー」のラストで、マンディアルグが半神であることを認知した。ヴォキャブラリーの管理人が「妻」のからくり人形を猛スピードで運動させ、地獄の高笑いをする場面である。他にはシェイクスピアの作品などにも半神が現れることがある。

◯ミルトン「失楽園」についてはこちら→ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(1)

ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(2)

小説の構成と見どころ

本の構成は5部に分かれた本編の前後にそれぞれ前書きと後書きが付いているという態だ。内容としては視覚的・絵画的な構図に訴える表現が多く、ストレートな言い回しを避けた高度な象形文字的文体となっている。その点でとてもシュルレアリスティックな小説である。私が一番夢中になったのは第3部「プラトン的立体」(Les corps platonociens)だった。

プラトン的立体

主人公が不倫相手に案内され「怪物の島」で糸杉の深い森の中の、巨大かつ奇々怪々な建造物群に遭遇する。5つの「プラトン的立体」が5辺形の各頂点上に配置され、その中心には巨大なヘルマディトス像が横たわっていた。主人公は像の内部を通り頭部に至る階段を上がって、頭頂部に開いた孔に冠のように設置されたバルコニーに行き着く。

そこから5つのプラトン的立体を眺めるのだが、主人公は昼に不倫相手とここに来た後、今度は夜中に一人で再びこの場所を訪れる。そして同じように頭頂部のバルコニーから5つの立体を観賞するのであるが、夜の月光の明かりのなかで立体群は透明に燃え輝いていた。

主人公はここである「知識」もしくは「悟り」に到達する。できるなら私自身そのような光景を観たいと願った。だがそれは外の世界をいくら探しても見つかるものではないのだった。プラトンの著作に出てくる「存在そのもの」の概念とも言える5つのプラトン的立体は、目に見えるものや耳で聞くことのできるものではないので当然だ。

この書はマンディアルグが遺したスフィンクスの謎かけのようなものなのだ。エピローグ「尻切れとんぼ」で作者は読者に宿題を出す。どうか読者が作者に変わり、この本の結末・答えを見出してくれるようにと。

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