【プラトン『ティマイオス』覚書】宇宙・魂・元素、すべては数学から生まれた
岩波書店の『プラトン全集・第12巻』に収められている対話篇「ティマイオス」。これを約20年ぶりに再読し、その内容の要点や印象深い箇所をメモのようなかたちでまとめておこうと思う。
学会からは猛反発が出るとは思うが、<科学的事実>は置いておいて、作品の放つ”異常な火”を眺めながら、ただ 「感じて」 ほしい。
全集版について
『プラトン全集12』は古書でも7,000円ほど。昔は1万2千円以上していた記憶がある。今では他社から安価な版も出ているようだが、岩波版はテキスト約170ページに加えて、注釈や補注が約40ページもあり、学術的な充実度は高い。
内容をきちんと読み解くには、やはりこの注釈付き全集がおすすめだ。ちなみに筆者は、毎度ながら高価な本は買わずに図書館から借りて読んだ。
なお最近、ティマイオス/クリティアス 単行本も発売されたが、訳者は岩波版と異なる。
同巻には、アトランティス伝説の出典でもある未完の対話篇『クリティアス』も収録されている。
アトランティス神話の序章
本書の導入部では、ソクラテスへの返礼としてティマイオスやクリティアスが自然や国家について語る設定が取られる。その中で「アトランティス大陸」の話が登場するが、これはプラトンの創作であろうとされている。
冒頭は謎めいた「1、2、3」という数字の列から始まるが、これは古代において「秘儀」を象徴する出発点としてとらえられてきた。そこからティマイオスによる壮大な宇宙論が展開される。
宇宙はいかにして生まれたか
ティマイオスはまず「宇宙は生成されたのか?永遠のものか?」という問いを立てる。そして、宇宙はある時に生成されたものであると断じる。なぜなら「生成されたもの」はそれ以前には存在しなかったからだ。
宇宙はただ一つであり、それを超える“別の宇宙”は存在しない。なぜなら、他の宇宙があるとすれば、それを包括する“さらに大きな宇宙”があることになってしまうからだ。
この世界は“すべてを含む一なるもの”として構築され、製作者(神的存在)はこの宇宙に魂を吹き込み、生きた存在=「完全な似姿」として作り上げた。
火・水・空気・土──4元素の調和
宇宙は「火・空気・水・土」という4つの基本元素から構成されている。製作者はこれらを比例関係に従って結びつけた。
宇宙には手足や目などは必要ない。外には何も存在しないため移動する必要がなく、球体という完全な形を与えられ、ただ“回転”という唯一の運動だけを持つ。
魂と数──1、2、3…そして回転する円環
魂の構成には「有」「同」「異」の三つが混合され、さらに1・2・3・4・8・9・27といった数的要素が関わってくる。
これらを組み合わせた“魂の素材”をX字に交差させ、円環として配置し、互いに逆方向に回転させた。外円は「同」=恒星の円であり、内円は「異」=惑星の円である。
内側の円はさらに7つに分かれ、7惑星の運行を象徴するとされる。宇宙は静かに、しかし明瞭に語っている。自然が語る声がなければ、人間が詩に心を打たれることも、美しい風景に感動することもない。
視覚と“光”の哲学
ティマイオスによれば、目はただ光を受け取る器官ではなく、自らも光(火)を発している。そしてその光が外界の光と出会って像を結ぶとされる。
この考え方はデカルト的な光学とは異なるが、恋愛における“まなざし”のような不思議さを説明するには、こうした神秘的な理論の方が腑に落ちるように思える。
三角形がすべての始まり
物体は面から、面は三角形からなる。そして三角形の最も基本形は直角三角形であり、これには二等辺と不等辺の2種類しかない。
これらの組み合わせにより、すべての物体が構成されている。まるで三角形が宇宙のDNAであるかのようだ。
5つの正多面体と元素
- 正四面体=火(最も尖って軽やか)
- 正八面体=空気
- 正二十面体=水
- 正六面体=土(最も安定)
- 正十二面体=第5元素(神の用いる図形)
最後の正十二面体については、構成要素が三角形でなく正五角形であるため、異質なものとされている。神がこの形を用いて宇宙を彩る──それが唯一の記述である。
注意):アイキャッチ画像はAIが生成したものであり、正確ではありません;五つの正多面体の形体および性質は必ずご自身で確認してください。
人体の構造と宇宙の美
魂は「髄」に宿り、髄は「骨」に覆われ、骨には「腱」、その外に「肉」と「皮膚」がある。このようにして人体が構成される。
病気には身体の病と魂の病があり、それぞれ原因と対処法があるとティマイオスは説く。
最後に、彼はこの宇宙を「最も美しく、最も善く、ただ一つで、生ける神」と呼び、その構築を賛美する。
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