【ニコラ・テスラ『秘密の告白』】成甲書房刊|天才発明家の思索を告白体から読む
テスラと現代の連想:電気自動車と宇宙開発
現代において「テスラ」と言えば、まず電気自動車のブランドや、イーロン・マスクの名が思い浮かぶ。筆者がその存在を知ったのは比較的最近、YouTubeでスペースXの逆噴射着陸や宇宙空間へテスラ・ロードスターを打ち上げた映像を目にしたことがきっかけである。
その驚異的な映像体験を通じて、ニコラ・テスラという名前に宿る“時代を超える電気と未来の象徴”というイメージが形作られた。
太陽光発電──テスラの先見と現代技術
ニコラ・テスラの構想の中で太陽光発電は、単なる未来のヴィジョンとして言及されるにすぎないが、今日ではそれが電卓から住宅、国際宇宙ステーションにまで当たり前の技術として実用化されている。
まさに彼の発想は21世紀の技術社会において現実となり、電力の脱炭素化・自然エネルギー利用という地球規模の課題にまで連結している。
エジソンとの対比──埋もれた名前の復権
ニコラ・テスラとエジソンの関係はしばしば「天才と大衆性」「理想主義と実利主義」という対比で語られる。一般的にはエジソンの名が教科書で親しまれているのに対し、テスラは長らく周縁的な存在であった。
本書に描かれる彼の写真や実験の姿には、明らかに“自己演出”が見て取れる。高圧電流の安全性を訴えながら、スパークを背にポーズを決める姿は、科学的理論の主張だけでなく、それを社会へアピールする表現の感覚にも長けていたことを示す。
本書の読後印象と出版社の特異性
成甲書房という出版社の独特なラインナップに一抹の疑念を抱きつつも、本書の内容自体は予想外に誠実で読みやすい。230ページの中に、テスラの思想・信念・孤独が告白体という形式で展開されており、科学伝記というよりむしろ知的自叙伝として優れている。
テスラが抱いた「自然エネルギーを人類のために用いる」という構想が、現代の脱炭素社会の理念と響き合っていることも重要なポイントだ。
電磁気とナノテスラ──名が刻まれる単位
テスラの名は「ナノテスラ」(nT)として、現在も地磁気や磁束密度の測定単位に残っている。これは彼が扱った高周波電流や電磁波が、単なる技術的対象ではなく、宇宙物理や地球科学において不可欠な基礎単位となっている証左である。
イーロン・マスクのような現代の起業家が、ニコラ・テスラの名を冠する企業を率いていることもまた、彼の思想がいかに“未来志向”であったかを物語っている。
哲学的余韻──自然と人類の関係を問う
本書を読む中で、筆者は次第にテスラの自然観に疑問を抱くようになった。彼は「自然の力を利用する」ことを語るが、果たして自然は“利用”されるものなのか?
近年の地球科学では、電磁気力が宇宙や生命を成立させる根本であることが示されている。自然はむしろ人類を包む不可視の母胎であり、操作対象ではないという視点が必要とされている。
結び──停電を超える覚悟
テスラの理想が、もし現代で完全に実現されるならば、我々は再び自然と向き合い直さなければならない。すべての電力が絶たれたとき、そこに残るのは“磁気としての地球”だけかもしれない。
そして、その地場に呼応するように──今もなお、テスラの夢と野望が地球を覆っているのだ。
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