作品概要
『ジュリアス・シーザー』は、古代ローマの英雄カエサル(ガイウス・ユリウス・カエサル)の暗殺を描いたシェイクスピアの悲劇です。カエサルは軍人、政治家、文筆家として名高く、『ガリア戦記』の著者でもあります。史実では皇帝ではありませんが、終身独裁官として実質的に初代ローマ皇帝に匹敵する権力を持っていました。
本作では、彼を最も信頼していた側近ブルータスが中心となって謀反を起こし、カエサルが元老院で暗殺されるまでを描きます。「ブルータス、お前もか!」という名台詞はあまりにも有名です。
奇怪な前兆
カエサルの権力集中に不満を抱いた者たちは、清廉なブルータスを担ぎ出して陰謀を企てます。そのころ、ローマでは不気味な前兆が相次ぎました。
- 奴隷の左手が燃えても火傷しない
- ゼウス神殿近くに現れたライオンが通行人を睨んで立ち去る
- 火炎に包まれた男たちの目撃
- 白昼、夜の梟が市場で鳴く
- 雌ライオンが街で出産、墓が開いて死人が蘇る
- 雲の上で軍団が戦い、血の雨が降る
異変の連続は、カエサルの死が迫っていることを暗示しているかのようです。
暗殺の日
3月15日(いわゆる「3月のイド」)の前夜、カエサルの妻カルパーニアは不吉な夢を見て夫に外出を思いとどまるよう懇願します。また、預言者スプリンナも「3月15日に注意せよ」と忠告していました。
一度は妻の言葉に従ったカエサルでしたが、使者の説得により「これは吉兆である」と考え直し、元老院へ向かいます。道中で預言者と出会い、「何も起こらなかった」と嘲ると、「3月15日は終わっていません」と返されます。
その言葉通り、カエサルはポンペイウス劇場の柱廊で、陰謀者たちに次々と刃を突き立てられ、23ヶ所もの傷を負って絶命。壮絶な最期を遂げました。
シーザーの亡霊
カエサルの死後、ブルータスたちは「自由のため」として市民の前で演説しますが、その後に登場したアントニウスの演説が空気を一変させます。
アントニウスはカエサルの遺言を読み上げ、「市民一人ひとりに遺産が残されている」と訴え、カエサルの志と民への愛を強調。群衆は怒りに燃え、暴動が勃発します。
反逆者とされたブルータスたちは追い詰められ、やがて自ら命を絶っていきます。ブルータスの前には、死んだはずのカエサルの亡霊が現れます。
「なんと薄暗いロウソクの光だ。おや、そこにいるのは誰だ?おそらく私の目が霞んでいるせいなのだろう、こんな恐ろしい物の怪が見えるとは!」
「ブルータス、お前の悪霊だ。フィリパイの戦場でもう一度会おう」
マケドニアのフィリパイでの戦いで軍は敗れ、ブルータスは自らの剣に身を投じて果てます。
まとめ
カエサルの死を経て、ローマでは第2回三頭政治が開始されます。マルクス・アントニウス、レピダス、そして後に初代皇帝となるオクタヴィアヌスの三人が権力を握ります。
本作は、後の『アントニーとクレオパトラ』へと物語がつながっていきます。
スエトニウス『ローマ皇帝伝』によると、カエサルは生前「最も望ましい死は、不意の死である」と語っていたそうです。それを地で行ったような最期は、まさに古代ローマ人の覚悟を体現していたと言えるでしょう。
『ジュリアス・シーザー』は筆者が最も好きなシェイクスピア劇のひとつです。シンプルで力強い展開、忠義と裏切り、政治と人間性――すべてが詰まっています。古代ローマ好き、政治劇が好きな方には特におすすめです。★5つ!
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