ダンテ「神曲」(Commedia)レビュー・シリーズ、5回目である。大きく三つに別れるこの大作の「地獄篇」第10歌〜第12歌について紹介。なお「神曲」は序を含めて全部で100歌ある。
「地獄篇」第10歌〜火を吐く墓
ディース市の巨大な城壁を突破したダンテと、先達者であり師匠のウェルギリウスとは地獄の第6の谷へと足を踏み入れた。そこでは火炎が吹き出す墓穴の中で亡者が責め苦を受けていた。亡者たちは各々二人が通ると穴から上半身を出して話しかけるのだった。
フィレンツェ出身ダンテだからわかる見知った連中がそこにいた。かれらはダンテの苦しい将来を預言する。また地獄の者共は「現在」のことどもには疎いが、遠くにある事柄はよく見えるのだという説明を受ける。地獄に堕ちた人間の能力である。
「地獄篇」第11歌〜地獄の地理
空間を満たすあまりにもひどい悪臭に耐えるため、慣れるまでしばらくこの場に止まることをウェルギリウスが提案する。その時間を有効に使い師匠はダンテに、地獄の地理状況と構造について説明するのだった。
すなわち最初の「一切の希望を捨てよ」の門を潜り、アケロン川を渡ってからこれまで6つの谷があり、また地獄の街ディースの城塞があった。そして第7の谷以降はそれぞれ3つの小さい円によって構成されているのである。
そして地獄は深みに行くほど先細りになっており、漏斗の断面をしているのだ。お分かりだろうか、この恐ろしさが。やがて地獄の底、地球の中心でサタンが責め苦に嘆いているのを読者は見ることになるだろう。
「地獄篇」第12歌〜ミーノータウロス
二人は第7の谷へと進んで行く。すると崖の降り口にいきなりミーノータウロスが横たわっていた。ミノタウロスとは頭は牛で身体は人の化け物である。
ギリシャ神話によれば遥かな昔、クレータ島ミーノース王は海神ポセイドンに捧げるはずの牛を神々より授かった。だが王は心を翻してこれを自分の財にし、別な牛を捧げた。
これに怒ったポセイドンは王の妻であり后であるパーシパエーに呪いをかける。すなわち后が牛に対して欲情を催すように仕向けたのだった。どうしても牛と交わりたかった后は工匠ダイダロスに命じて雌牛の模型を作らせその中に入った。そして生まれたのがミーノータウロスだった。
ウェルギリウスに叱咤されると怪物は手足をばたつかせて猛烈に荒れ狂うのだった。
血の池
やがて進んで行くと広大な血の池が現れた。沸騰する血の中で亡者たちは熱湯に責められていた。主に生前他人の血を流すことで財を得ていた暴君たちだ。するうちケンタウロスの一群が駆けてきた。
二人はケンタウロスのリーダー的存在、ケイロンが来るのを待った。医術の神アスクレーピオスや英雄アキレウスに学問を教えた賢者である。ケイロンは手下に命じて向こう岸へと二人を案内させた。
そしてダンテとウェルギリウスはケンタウロスの後ろから、血の池の浅瀬を一緒に渡ったのだった。