バンディット
トランザム、ポンティアック、ポンティアック・ファイヤーバード・トランザム、フォーミュラー、いろいろな呼び名はあれど最も有名でポピュラーなのは、70年代の米映画「トランザム7000」(Smokey and the Bandit)で一躍脚光を浴びたあのクルマである。すなわち鷹の目ヘッドライト・黒の77年式、ゴールドの装飾ラインとファイヤーバードのデカールのトランザムだ。
'78 Trans-am
さすがにこのモデルだけを語るとミーハーと思われても仕方がないから、いっぱしのトランザム通ぶってちょっとこのクルマのルーツを辿ろうと思う。
歴史
PONTIACは輝かしいマッスル・カーの歴史をもつジェネラル・モーターズ(GM)の自動車ブランドである。トランザムはよく同じくGMのブランドであるシボレー・カマロと間違われる。姉妹車と言われるくらいよく似ている。特に90年代前後のカマロはマッド・マックスのインターセプターとトランザムの79年式モデルに似ている。
ポンティアックはご存知の通りすでに廃止されたブランドである。京都議定書や地球温暖化対策に逆光するようなイメージの自動車メーカーだった。初期は高級でステータスの高いマッスル・カーを作っていた。GTO、ファイヤーバード、これらを良質な状態で整備して乗ることができるのは、本当にクルマを愛していて技術と知識をもつ人か、所ジョージのような金持ちだけだろう。
大人気モデルとなるには多少の推移があった。1969年式トランザムは見た目は渋いしパワーは絶大だったが、はっきり言ってそんなにかっこよくない。トランプ大統領が語るような偉大だった頃のアメリカの車の性能とは、燃費や車載能力や安全性ではなかった。スピードとも違う。とにかくガソリンを消費して大量の排気ガスを出すことだった。すなわち、トルクと排気量こそが正義であった。
●参考動画はこちら→79トランザム 音 ホイルスピン 急発進
1971年になると455-HOエンジン搭載のスーパーカーであるトランザムが登場する。排気量は7500cc、軽自動車約7台分である(笑)。フェニックスを模ったボンネットのデカールがオプションで付けられるようになる。
デカール(例)
V8エンジンは左右に4つの気筒を備え、それらが怪物のような唸り声をあげる。特に昔のクルマの持つ獣の如き咆哮は、現代のハイブリッド車などからは絶対に得られない快感をドライバーに与えてくれる。
火の鳥の翼はちょうど燃え上がるV8エンジンの上をなぞっているのだ。
バート・レイノルズ
やがて中東戦争によるオイルショックの影響などにより、さすがのファイヤーバードも少しばかり控えめになる。77年にバート・レイノルズの映画で大人気になったフロント4灯式鷹目のモデルがついに出た。私が最も憧れているモデルであり一度も乗ったことがない車だ。それでも排気量は6.6リッターあった。
昔のトランザムは、現代のように燃料噴射装置(fuel injection system)つまりコンピューターによるエンジン制御の機構を持っていない。「マッドマックス1」のナイトライダーのセリフを思い出すがいい。
「俺は燃料噴射装置付きの自殺マシーン。自由に向かって突っ走る」
昔は完全アナログのキャブレターでエンジンに送る燃料を調節した。であるから気候やその日の調子に人間みたいに気まぐれに反応する。よく米の映画で古い車にエンジンをかける時、2、3回アクセルを踏んだ後クルマに「頼むぜ」「どうしたの?」と話しかけるのはそんな事情による。
77トランザムは「トランザム7000』以外にも色々な映画に出ているが、例をあげると「ブレーク・ダウン」「プリズナー」など犯罪に使われたりサイコ野郎が乗るクルマに多い。そして大概最後に大破する。大抵ピカピカの新車ではなく汚ったないボロ車として出てくる。そこがたまらなく私は好きなのだ。
フェニックスのデカール
火の鳥のデカールは一応シールではあるが、プロでないと自分で貼るのは厳しいだろう。アメリカ人のようにペンキ塗りや大工仕事、バーベキューも得意なD.I.Y民族なら別だが。
あのデカールは破滅の象徴であり、「突撃」「突破」「玉砕」&「復活」といったイメージがある。また俺はお前らとは違うぜ的な、平凡な周囲との差別化効果・貴族意識もある。
デカール(例)
そしてこの車の持つ強烈な印象だ。現代ではエンジンをかけるのさえ罪深いトランザム。小学校低学年の頃だったと思う、黒いボンネットに羽ばたくファイヤーバードを見た時のことは今でもよく覚えている。私は子供で自家用のトラックの真ん中に乗せられていた。ヒーローが乗るクルマだ、感動に慄えながらそう思った。
私のトランザム歴
私は20代の時に89年式黒のフォーミュラーを買った。アメ車らしいボロの雨漏りする、しかしエンジン好調のトランザム。無理やり大きなデカールも貼ったがボンネットに入りきらず羽の先が切れた。その支払いが終わる前に今度は79年式のトランザムに乗り換えた。白に赤のデカールだった。
ノストラダムスの予言で1999年に人類が滅亡すると思っていたのでどうともなれだった。だが世界は滅亡しなかった。結局はトランザム乗りらしい結末となった。私は借金まみれになり、トランザム→軽自動車→原付と乗り換えてついに足が無くなり、交通の便が良い神奈川に移住したのだった。