「方法序説」
デカルトの有名な「方法序説」は当初それに続く論文の序文として発表されたことは皆さんご存知の通り。すなわち「屈折光学」「気象学」「幾何学」の3つが付いていた。「方法序説」はその後単体で広く読まれるようになった。
原題は"DISCOURS DE LA METHOD Pour bien conduire la raison,&chercher la verité dans les sciences. Plus LA DIOPTRIQUE. LES METEORES. ET LA GEOMETRIE. Qui font des essais de cette METHODE."という長いものである。
●参考→デカルト【方法序説】〜我思うゆえに我在り〜について考える
良識 (bon sense)
デカルト先生は学者が用いるラテン語ではなく一般の人でも理解できるようにフランス語で書いた。「方法序説」でも書かれているように”良識”(bon sense)なるものは万人に共通に与えられており、真理に達するのに必要なのはこれなのであるから。
この方法を実践すべく「屈折光学」も書かれており、したがってタイトルから想像するように、私も正直最初は尻込みしたのだが、決して難しい内容ではなかった。私が難しい、という場合どんなのを指すのか。例をあげるとユークリッド「原論」とかプトレマイオスの「アルマゲスト」「ハルモニア論」とかなのだ。
それらは学者でなければ理解できない計算や証明や専門用語がずらずらと並び、もはや付いて行けなくなるばかりかほとんど”立ち読み”すなわち流し読み状態になるのだ。ところがデカルト先生はあえて読者がそのような苦境に立つのを欲しない。
一般の読者がそれらのいわゆる”難しい”本を読むとどんな退屈な気持ちになるかがよくわかっているのだ。「屈折光学」はわかりやすい譬えと味わい深い版画の図版が多数あるから、とても面白く太陽光線について、視覚について学ぶことができる。
各講内容
量も邦訳で100ページほどで無理なく読破できる。講義は十に分かれていて第1講から順に、
⑴光について ⑵屈折について ⑶眼について ⑷感覚一般について ⑸眼底で形づくられる形像について ⑹視覚について ⑺視覚を補強する手段について ⑻透明な物体が、視覚に役立つあらゆる仕方で屈折によって光線の向きを変えるためにもつべき形について ⑼眼鏡についての記述 ⑽レンズをカットする仕方について
となる。⑴では光線のはたらきが盲人の杖と葡萄酒造りの樽に譬えられる。また光の反射について簡単にテニスボールとラケットで説明される。 ⑵ではちょっと幾何学図形が出てきて頭を悩ますがさほど難しくない。 ⑶では眼球の断面図が出てくる。 ⑷では感覚がどのように生ずるかが短く明快に説明される。
さて⑸になると眼に入ってくる光線の図および脳と眼球が神経で結合された図が出てくる。これらはどちらも大事である。 ⑹で視覚についてより突っ込んだ話が再び盲人の杖などで説明される。 ⑺はレンズのはたらき ⑻は、強いて言えば一番難しいが、読者は理解するために図版を見るだけで良いとデカルト先生は書いている。
⑼はなんと眼鏡の造り方について論じている。当時はガリレオが望遠鏡を発明したばかりだった。ここで言われているのはむしろ望遠鏡のようなものであって、いま私たちがかけているようなものでは全くない。⑽は、驚くべきことにどうやったら役に立つレンズをカットできるかが書かれている;つまり職人に向けて。
機械の考案
そしてレンズを然るべき形にカットするための機械を考案している!カットと言っても現代の私たちがメガネ・ショップで作る時のようにイメージしてはいけない;デカルト先生は放物線状に湾曲したガラスのレンズを作ろうとしているが、視力を何度上げるとかではなく、あたかもうまい具合に形ができればそれが視覚を補強できるという、いわば偶然に頼っているのである。
以上が「屈折光学」の内容である。これだけでいかに面白い本か想像できると思う。訳は私が知っている限りでは白水社のしか出ていない。私はそれを東洋女子短期大学という、千葉にあって廃校になった図書館から除籍された古書をアマゾンで手に入れたのだった。
この後の「気象学」「幾何学」も楽しみである 😉