ダンテ『神曲』及び「天国篇」まとめの最終回。
第31歌〜薔薇の花びら
天国界10番目、最後の至高天の薔薇の円形劇場にたどり着いたダンテは、座席の部分に当たる薔薇の花びらと父なる神の間を蜂のように往復する無数の天使を眺める。絶景に呆然として再びベアトリーチェの姿を探したが、彼女ははるか上の方の座席に座っていた。
彼女と入れ替わりに、マリア崇拝で有名な聖ベルナールがダンテの横にいた。ベルナールは12世紀の教会博士・カトリック聖人である。彼に促されてダンテは劇場の中心から一緒に聖母マリアが座る一番上の方を仰ぎ見る。
第32歌〜聖ベルナール
聖ベルナールが祝福された高い徳の人々の魂を紹介する。洗礼者ヨハネ、フランチェスコ、ベネディクトゥスらそして筆者が好きなアウグスティヌスもいた。アウグスティヌスは「神の国」「告白」などの書物で日本でも知られるが、聖人だが哲学者でもあって多方面から神の実在について・信仰について論じている。
さらにベルナールの紹介で天上の女性たち、神によって創造された最初の女であるイヴ、ダンテの愛するベアトリーチェらの座る席を指し示す。ベアトリーチェは上からダンテに微笑む。また救われた子供たちの無垢の魂がキリストの顔の似姿として描かれる。ベルナールが祈りを始め、ダンテが神を仰ぎ見ることができるようにと願う。
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第33歌〜三位一体
聖人の祈りのあと、ダンテの視力が研ぎ澄まされる。聖母マリアへの願いが叶えられたのだ。ダンテは長い旅の終局に見出した神秘の光について、その一端なりとも詩句に記すことができるように熱望するが叶わない。発生される言語は物体的なもので、音にせよ、文字にせよ、比喩にせよ通用するものではない。世界を創造したとされるロゴス(言葉)は、そのものとしては語ることが不可能なのだ。
しかし最後の光を取り巻く3重の虹の如き輪を見つめながら、ダンテはこの詩の主題である「三位一体」の意味を閃光がきらめく刹那に理解した。今ダンテの心は万物を動かしている力そのものである愛によって、宇宙とともに動かされるのだった。
まとめ
こうして『神曲』全編は終わる。このような簡単なレビューを書くのも大変だが、ダンテはこの詩を17年かけて書いたのだ。
キリスト教国家ではない日本で日本人として育てられた筆者には、父と子と精霊の「三位一体」というものがどんなか重要なのかはわからない。しかし”3”という数字が何か聖なるものだというのは直観することができる。
そして宇宙を動かす力を自己のうちに一体のものとして認識することは、映画スターウォーズ「最後のジェダイ」でルークがレイに教示するところそのままでもある。この長いレビューをスターウォーズの”フォース”でしめくくって良いものかどうか、眉唾だがそれもよしとしようではないか 😆