抽象的な内容の「天国篇」もかなり内容の濃い部分にさしかかって来ているので、注意して読んでもらいたい。
第25歌〜月桂冠
ダンテがいつか故郷フィレンツェに戻り、詩人として月桂冠を戴くのを夢見ているとヤコブの魂が希望について話しかけた。
満足な答えをダンテが発すると恒星天の魂の歌声で祝福される。続いて使徒ヨハネが現れる。ヨハネはキリストの弟子の中で唯一殉教しなかったとされ、肉体のまま昇天したという伝説がある。
ヨハネがどんな身体を持っているか確かめたくて光を見つめるが、目がくらみダンテはベアトリーチェまでも見えなくなる。
第26歌〜アダム
優しく導女ベアトリーチェが母親のようにダンテを力づける。やがて徐々に視力は回復してきた。その間ヨハネが愛についての問答を交わすが、ダンテはしっかりと答えることができた。
愛だの光だの永遠だのJPOPの歌詞に成り下がった退屈なテーマだが、一応そのような対話が恒星天の上へ登る前に行われたということだ。
ベアトリーチェとヨハネのおかげでまた見えるようになると、神によって初めて創造された人間であるアダムの魂がいた。アダムは身の上を語った。
それによるとアダムが純粋だったのはわずか6時間強で、その短い間に妻イヴがサタンが化けた蛇に騙され、アダムも楽園を追放されてしまったそうである。
この短さはミルトンの「失楽園」と合ってないようで、ミルトンだと2〜3日は平和に過ごしていたかの感がある。
◯ミルトン「失楽園」はこちら→ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(1)
さらにキリスト生誕を天地創造後5200年とする学者の説にならい、アダムの過ごした年が数えられる。すなわち旧約によればアダムは930歳で死んだので地上に930年、地獄のリンボに4302年いたという。
リンボはキリストが生まれる以前の良き魂がいる場所。地獄にあるが光が射しており苦しみもなく、哲学者や詩人が睦まじく過ごす。プラトン、アリストテレス、ダンテを地獄・煉獄と案内したヴェルギリウスなどもここにいる。
◯「地獄篇」リンボ(第4歌)についてはこちらへ→ダンテ【神曲】まとめ(3)〜「地獄篇」第4歌・第5歌・第6歌
旧約には人類の先祖の系譜が記されているから、昔の学者はそれを逆算して天地創造年を割り出したのであろう。しかし人間が900年も生きるはずがない。これはヘブライのカバリスティックな数字で、まともに地上の年月に換算するのはどうかと思う。また天地創造がたかだか6000年ほど昔にすぎないなんてことはないだろう(笑)。
第27歌〜原動天
聖ペテロの神の裁きを求める声で第8天は夕焼けのように赤く染まる。ダンテはもう一度地球を振り返り道程を一望した。ベアトリーチェの美しい瞳の力でダンテはさらに上天へ上がった。
ここは宇宙を回転させる原動力である愛が在る場所、車で言えばエンジンに当たる。ついにダンテは父なる神のいる至高の天の手前まで来たのだ。