ついに険しい煉獄山頂上の地上楽園に到達したダンテ。だが彼の崇拝する永遠の女人・ベアトリーチェの呵責なき糾弾で、雷鳴のような涙を流す。「煉獄篇」の最終回。
第31歌〜悔恨の涙
天の使命を帯びて地獄の入り口で彷徨うダンテへウェルギリウスという助け船を送り、師匠の導きで煉獄の山の頂へ無事連れて来ることができた。
10年ぶりにこの世を去った愛する女性に再会し、犯した罪を悔いて涙でその汚れを落とさなければならない。ベアトリーチェの責めは止まることなく、容赦無く続いた。
激しい悔恨により息も絶え絶えのダンテは卒倒した。眼を覚ますと天の良き友であるマチルダ婦人が彼を静かにレテ川へ曳いて行く。
水面に沿って水の上を歩く婦人。優しくダンテを慈悲深い川に浸すと、ダンテは貪るように水を飲んだ。次いで婦人はダンテを水から引き上げると4人の天女たちの間へ連れて行き、彼女たちはそれぞれの腕でもってダンテを包み込んだ。
彼女たちは清められたダンテを再びベアトリーチェのいるグリフィンの車のところへ案内した。さらに3人の天女たちがベアトリーチェに、彼女の「第2の美」をダンテに示すよう懇願するのだった。
「第2の美」と呼ばれるのは、ベアトリーチェの「微笑」であった。かつて彼女が地上に生きていたとき、ダンテが少年の頃にすでにその魅惑の虜となった笑顔である。
レテの水を飲むことで罪を忘却したダンテにベアトリーチェは再び微笑した。彼女に対する崇高な賛美が捧げられる。こうしてベアトリーチェは詩人の技術により、不滅の女性となった。
第32歌〜一本の大樹
ダンテは彼女の笑顔のあまりの光に眼が眩む。太陽を見つめすぎたのである。ある天女の声で優しく制せられると、ダンテは仕方なく顔を回した。
ダンテの視力が回復して来ると一行は「知識の樹」と見られる一本の大樹の方へと進んだ。アダムとイブがその果実を食べ、追放されたあの樹である。樹の周りで予言のような象徴が現出するのを驚嘆して眺める。
第33歌〜エウノエ川
天人たちの聖歌とともにベアトリーチェは一行を率いてエウノエ川へ歩いた。この川は善を想起させる意思の根源とも言える効力があるのだった。
レテとエウノエが流れ出す泉もあった。この泉から悪を憎む心と善を愛する心が湧き出るかのように。その泉の辺りでダンテと連れのスタティウスはエウノエの水を飲んだ。
スタティウスはダンテ同様にヴェルギリウスを崇拝する詩人だったが、煉獄で清められて途中から同行している。おそらくこの人物はダンテの目覚めつつある自由意志と理性の象徴なのかもしれない。
ヴェルギリウスがいなくなった直後の同伴者だからである。ちなみにスタティウスは天国界では登場せず、ここで終わりである。天国界はベアトリーチェと二人きりで宇宙空間へと飛び立ち、星々と銀河を巡るのである。
エウノエの水で完全になったダンテは、すでに星へ登るために不可欠の純粋さを自分の物にしていた。なんとなれば一切の不純な存在は天へは入れないからである。
まとめ
「煉獄篇」をここまでお付き合いいただいて感謝する。やはり頂上付近のボリュームが多く、最も心を打つのがベアトリーチェとの再会である。
次回より「天国篇」のレビューとなるが、物体的な物のない宇宙でありベアトリーチェとダンテはもっぱら飛翔により星から星へと移動するのである。
なのでかなり掴みどころのない抽象的な内容になる。心構えがないと『神曲』の「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の中で一番退屈になるのが「天国篇」である。
筆者としてはいかにこの退屈な「天国篇」を面白くレビューできるかが肝心となって来るだろう。 😉
*次の記事はこちら→ダンテ【神曲】まとめ(24)〜「天国篇」第1歌・第2歌・第3歌
◯「天国篇」まとめ→ダンテ【神曲】「天国篇」〜まとめのまとめ〜