夢日記|皆狭書(かいきょうしょ)という謎の文書

思考の化石

とある夢の記録──皆狭書(かいきょうしょ)という妖文書について

夜半過ぎ、私はある種の錯乱状態に似た意識の中で、たいへん奇怪な夢を見た。

それは一種の錬金術的幻視とも呼ぶべきもので、プラトンの『テアイテトス』や、マンディアルグの『証人のささやかなオニロスコピー』──すなわち「錬金夢」──が種火となり、さらに町内会の運動会という古層的記憶が予期せぬ触媒となって、意識の混合物に一気に火がついたのかもしれない。

そのうえ寝る直前にはスマホで『ヘルメス選集』を読んだのだから、これはもう錬金釜が爆発してもおかしくはない。


螺旋する都市と失踪する恋人

夢はすでに風景からしておかしかった。

私はガールフレンドと共に、デパートのエレベーターを降り、奇妙に明るいペデストリアンデッキに出る。

そこにはなぜかもう一人、中年の友人がいて、しかしその顔は曖昧模糊として識別不能であった。

彼女はふと笑いながら「なんか死にたくなってきた」と呟き、石畳の上にしゃがみ込む。

私は彼女を元気づけるために歩き出し、ふと気づけば周囲の風景は竜宮城にも似た光景に変じていた。

そこで私たちは一軒の店に入った。私は夢の中で「ここには以前も来た」と確信していたが、のちにそれが別経営のヤクザ店であることが明らかになる。


蛇の肉──錬金された食物

出てきた料理は驚愕に値する。分厚い板──いや、それは実のところ巨大な蛇肉であった──に、半焼けの高級肉が乗っている。

その蛇板は私の首に巻き付けるようにして運ばなければならなかった。

どうやらこの肉は、食物というより魔術的な贈与物であったらしい。

途方に暮れる私の前に現れたのは、ホストのような若いヤクザ。

彼は言う──「これは20万。ここに31万あるから、皆狭書を作成して50万にしよう」と。

このかいきょうしょ(皆狭書/改侠書)とは、どうやら夢の中だけで流通している闇の借用書であり、その一筆で人は一生の債務を負うらしい。

利息はトイチに近い地獄律

友人は電話をかけてすぐに金を用立てようとする。私はそれを見て「私もそうすべきだろうか」と悩むが、夢の論理はその先を曖昧にぼかしている。


夢と文書──そして“第三のもの”は存在しない

目覚めたあと、私は「皆狭書」という言葉を検索した。

しかし現実の法務用語にも、反社業界の隠語にも、そんなものは存在しない。

──だが、確かにその文字は夢の中で私の前に存在していた。

それは一種の夢界の契約書であり、見る者の魂に印を押すような禍々しさがあった。

ヘルメス・トリスメギストスは言った。

「一切は生起するものと、それを制作するものの二つのみ。

第三のものは存在しない。」

あの夢もまた、生起したもの。

ではそれを制作したのは、私の魂か、それともあの蛇肉を差し出した誰かか──?


補記

この夢の中で私が見た「皆狭書(かいきょうしょ)」という名の文書は、

私にとって未だ解けぬ錬金文書である。

それは借金の証文であり、魔術の書であり、あるいは存在することの代価を記した契約かもしれない。

次にまた夢で出会ったなら、私はそれに署名するだろうか?

あるいは……?

コメント

タイトルとURLをコピーしました