坂口安吾『女剣士』レビュー|狂気と笑いが交錯する破天荒な短編小説

小説の闘牛場

【坂口安吾】『女剣士』レビュー|笑えて馬鹿げて狂ってる、最高の短編小説!

三島由紀夫はこう言った

坂口安吾という作家の名前を、教科書で見た記憶がない。たぶん今も国語教材には載っていないのではないだろうか。

それもそのはず、太宰治の「走れメロス」とは違い、坂口安吾の作品はあまりにも“ぶっ飛んで”いる。

ちなみに、三島由紀夫は太宰が大嫌いだったことで有名だが、安吾のことは大絶賛していた。

「太宰がもてはやされて安吾がそうでないのは、石が浮かんで木が沈むようなもの」

なるほど、それなら読んでみようじゃないか。というのが、今回の読書動機である。

ヒロポン・インタビュー

坂口安吾は明治39年、新潟県に生まれ、1955年、脳出血で亡くなった。

薬物依存歴あり。インタビューでは「ヒロポン(覚醒剤)を飲んでから寝るためにアドルムを服用していた」と語っていたという。

まるでポーの亡霊が昭和に転生したような人物である。

実際、エドガー・アラン・ポーの影響を受けたらしく、安吾作品にも“狂気”の匂いがたびたび漂ってくる。

『女剣士』という狂気

今回紹介する短編『女剣士』は、そんな坂口安吾の「狂気と笑いと妄想」のごった煮のような作品だ。

物語は、刑務所上がりのしがないコソ泥が、山奥の剣術一家に転がり込むところから始まる。そこに住むのは、剣術バカの父親と、剣の才に恵まれた娘。

コソ泥は、掃除をしていようが、飯を炊いていようが、ことあるごとに父娘から殴られる。だがそのうち、殴られながらも身のこなしを覚え、強くなっていく。

ある日、父は娘と山に籠もって修行へ出発。その間、コソ泥ともう一人の弟子に稽古を続けておけと命じる。しかも、「勝った方に娘を嫁にやる」と。

コソ泥は俄然やる気を出し、実力を伸ばしていく。

近親相姦と“境地”

一方、山で父は娘に近親相姦を申し出、娘は素直に応じる。だが、父は修行どころではなくなり、滝の裏で自分のアレをいじくっているうちに、娘に脳天をぶっ叩かれる。

娘は滝をよじ登り、途中で振り返って股を開き、小便をぶちまける。

これに観念した父は、自らの一物を切り落とす――雑念を断つためだ。

だが悟りなど開けるはずもなく、すごすごと山を下りる。

コソ泥 vs 娘、そしてラストへ

戻った娘は、すでに腕を上げたコソ泥に腹を立てて暴力を振るうが、彼はめきめきと力をつけ、ついには彼女を倒す。娘は激怒して刀を振り回し、コソ泥を家から追い出す。

そこへ、腑抜けになった父が帰宅。

娘は「これは何か秘剣を得たに違いない」と勝手に感動し、父に斬りかかる。父は抵抗もせず、あっけなく死ぬ。

娘はそれを「父は無我の境地に達したのだ」と解釈して感激する。

……いや、狂ってる。

愛すべき破滅作家

どうかしている。だが、この“どうかしている”感じこそが坂口安吾の魅力だ。

太宰治のような鬱屈とは異なり、安吾には妙に“陽気”なダメ人間感がある。やさぐれた哲学、開き直った退廃、破滅を笑う明るさがある。

1955年、取材先の宮崎から帰宅後、倒れて死去。

三島由紀夫、谷崎潤一郎、そして坂口安吾。日本の文豪たちはどこか「生きること」に不器用で、そして面白すぎる。


📚 関連リンク:

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