【ノクターナル・アニマルズ】超セレブ御用達ファッション・デザイナー監督による、最高に後味の悪い映画
作品概要
『ノクターナル・アニマルズ』は、予告編だけを見るとエロティックでスタイリッシュなサスペンスのように思えるが、実際は非常に残酷で後味の悪い作品だ。同様の後味を残す映画に『ファニー・ゲーム』などがある。
ストーリーの構成としては、かつて別れた元妻のもとに、元夫から1冊の小説が送られてくる。映画の大部分はその小説の映像化で構成されており、その内容が凄惨かつ衝撃的なのだ。物語を読むうちに元妻はかつての夫を思い出し、連絡を試みるが、約束したレストランに彼は最後まで現れない。
主人公の元夫であり、小説内の主人公も演じるジェイク・ギレンホールは、本作でもその繊細で陰のある存在感を発揮する。なお、彼は元妻の回想や小説の中にしか登場せず、現実の時間軸には出てこない。
あらすじと冒頭の衝撃
映画の幕開けは、監督トム・フォードの美的感覚と挑発精神が全開のシーンから始まる。超肥満体の中年女性たちが全裸で踊るという異様な映像が数分間にわたり続く。見る者に不快感と動揺を与えるこのオープニングは、まるで「これから目を背けたくなるものを見せるぞ」という監督の宣告のようでもある。
この衝撃的な導入のあと、小説のストーリーが描かれる。ハイウェイで暴走族に絡まれた一家が襲われ、父親は置き去りにされ、妻と娘は惨殺される。無力な男が、病に侵された保安官とともに復讐の道を歩む——典型的な復讐劇ではあるが、重く、痛々しい。
元妻の視点とラストの余韻
元妻は小説を読み進めるうちに元夫への感情が揺さぶられ、連絡を取る。やがて再会の約束を交わすが、指定されたレストランに元夫は来ない。彼女は煌びやかな店内で一人、虚しくグラスを傾ける。小説のラストとリンクするように、彼女の現実もまた救いのない孤独で締めくくられる。
そして、観客に追い打ちをかけるように、エンドロールは異様に遅い速度で流れる。この「終わったはずなのに終わらせてくれない」感覚が、映画全体の後味の悪さをさらに強調する。
まとめ・感想
一見、ファッション界の頂点に君臨するトム・フォードが監督したとは思えないほど、泥臭く暴力的で救いのない本作。なぜ彼があえてこのような作品を手がけたのかは謎だが、確実に強烈な印象を残す。
見終わったあとに残るのは、ただただ虚無と静かな怒り。映画祭では高評価を得たが、観る者の心をえぐるような「観て後悔する映画」として、後味の悪い映画ランキングに名を刻む一作である。
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