哲学

アウグスティヌス【神の国】第二巻〜空中を浮遊するダイモーンらについて

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聖アウグスティヌスは4−5世紀北アフリカ生まれの教父、聖人。単なるキリスト教の説教師ではなく、ローマで改心するまでには様々な異端の学問に通じた講師であった。母の死の時期に北アフリカに戻り、ついに信仰の生活に入った。

「神の国」第二巻(岩波文庫)ではプラトン、アリストテレスはもちろん新プラトン派やヘルメス・トリスメギストス教義にも言及し、バイブルに書かれている内容がいかにそれらの哲学と合致しているか。またどこが間違っているかが徹底的に分析されている。

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異端反駁

異端の神々を信仰する人々やそれを勧める学者・教祖たちはすべて、”空中に存在するダイモーン”によって欺かれていると主張する。現代ならダイモーンの存在は議論にもならないし、さらに議論されたであろう時代はとうの歴史の過去に埋もれている。

アウグスティヌスの時代は神・悪魔・天国・地獄・ダイモーンなどは存在して当たり前の常識だった。ダイモーンというのは簡単に言うとダイモン、デーモン、つまり悪魔だ。そしてダイモンは聖書に記されているように、光の天使の姿をして人間を欺くのだと言う。

プレデター

人間が地上に目に見える姿形で生存しているように、これらの存在は空中つまり空気中にいる。体自体が空気であるのでプレデターのように人間の目で見えない。プラトンの説く神々の身体が火で出来ているように、下位の存在であるダイモーンは空気なのだ。

さらに下位の存在つまり私たち人間をはじめとする生き物は土でできている。空中のダイモーンは人間を操る強力な力を持っているので、弱い意思の者や神に繋がっていない信仰無き輩はこれの奴隷となる。

ボードレールの詩「破壊」では次のように歌われている;「絶え間なく俺の周囲でダイモーンが働きかける。彼らは触知できない空気のように浮遊している。俺が空気を吸うとそいつらは俺の肺を焼き、唇を呪わしき媚薬で慣らし、俺を永遠の罪の欲望で満たす」

●ボードレールはこちら→ボードレール【悪の華】まとめ記事〜作品レビュー集

ソロモン

紀元前10世紀ユダヤの王ソロモンは、神の名によりあらゆるダイモーンを呼び出し言うことを聞かせ支配下にした。悪魔界のアメリカ大統領に値するアズモダニオスやベルゼバブも召喚したが、ソロモンが命令すると神殿の建造を手伝わされた。

つまりソロモンの神殿は支配に置かれたダイモーン達によって建てられたのである。ベックフォードの「ヴァテック」の舞台アラビアでは、ソロモンはシュレイマーンとかっこよく呼ばれている。聖書の「箴言」「雅歌」「伝道の書」の作者ソロモンは、悪霊達を手なずける力の持ち主として古来より崇められ、「ソロモンの鍵」は最も代表的な魔術書である。

◯「ヴァテック」はこちら→【ヴァテック】W・ベックフォード〜火の地下宮殿に眠るソロモンの護符

オカルティズム

さてこのダイモーンなる悪魔たちは空中にいるのである。注意してもらいたいのはxアタノールxオカルト・サイトではなく、哲学のブログであるということ。何らかの対象がオカルトであると分類されるや否や、それは真実性を失うのである。

つまり”近代科学の合理的理性”に反すると定義されているがゆえに。(ここで”理性”の名が汚されている);ダイモーンは真実を嘘と思わせ、嘘を真実と思わせる。醜い物を美しいように見せかけて人々を誘惑し、人の心を汚し自らも汚れながら、誤った道へ(つまり地獄という破滅へ)連れて行く。

物の本質

映画「羊たちの沈黙」で、レクター博士は連続殺人犯バッファロー・ビル逮捕の手助けとして、クラリス・スターリン(ジョディ・フォスター)に「マルクス・アウレリウスを読め。物の本質を学べ」と教え諭す。しかし物の本質について書いたのはルクレティウスではなかったか。

それはどっちでもよい。物の本質は”見せかけ”で覆われている。ダイモーンは美しい天使のような”見せかけ”で人を欺く。ダイモーンの本質は悪魔であり、悪意と欺瞞の塊であり醜い怪物である。そして理性をもってでなければ本質は見えず、肉眼による視覚に欺かれるのである。

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