小説

【マンク】M・G・ルイス〜破戒の修道士が悪魔と契約し淫猥な犯罪を行う

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「目をよく開いて、よく考えて見なさいよ。どうせあなたは地獄へ落ちるのよ。永遠の地獄に落ちることになっている」ー『マンク』第三巻第5章

作品

『マンク』はイギリスの小説家マシュー・グレゴリー・ルイスによる1796年の作品で、「オトラントの城」「ヴァテック」などとともにゴシック小説に分類される。「マンク・破戒僧」なる映画も2011年に公開されているが、この記事は原作の内容紹介・レビューである。

全体の雰囲気としては悪魔・幽霊といった超自然の現象が魔法・妖術などの中性的迷信とともに描かれている。極めて暗黒文学の色が濃く、第三巻あたりになると暗闇と不気味な恐怖に真っ向から立ち向かい戯れるエドガー・アラン・ポー的世界になっている。

むしろエドガー・アラン・ポーが影響を受けているのだろう。この本が出たのはポーの生まれる前の時代であるから。全般的にポーは暗いもの・じめじめしたもの・不気味なものを題材として好むが、『マンク』の影響が濃いものと思われるポーの短編小説として「陥し穴と振り子」がある。

暗く閉ざされた絶望的な空間、絶え間のない恐怖の発作、次第に失われていく理性と増大していく狂気。ソリッド・シチュエーション・スリラー映画のような状態でのたうち回る何ら助けのない主人公。映画では見慣れていても小説だと映像だけで描ききれない、文字による心理的表現の力が恐怖と面白さを盛り上げてくれる。

◯「オトラントの城」はこちら→【オトラントの城】イギリス・ゴシック小説の祖・ホレース・ウォルポール作〜内容紹介・レビュー

◯「ヴァテック」はこちら→【ヴァテック】ウィリアム・ベックフォード著作レビュー〜オリエント奇譚・幻想物語を紹介

◯「陥し穴と振り子」はこちら→【エドガー・アラン・ポー】「陥し穴と振り子」〜ソリッド・シチュエーション・ホラー的短編を紹介

あらすじ

マドリッドの高名な修道院長であるアンブロシオは、その巧みな論述と端麗な容姿によって民衆から絶大な人気を得ていた。彼の教会での説教はいつも入りきれぬほど満杯になり、神の使いとして語る言葉に誰もが感動させられるのだった。だが彼の心には高慢・虚栄の影が指し、あらゆる現生の誘惑から遠ざかった修道院にいてもそれからは逃げられなかった。

さらにアンブロシオは物心もつかない幼い頃に捨てられていたのを教会が引き取った子だったので、その高い徳は無知の果実と言って良かった。もちろん童貞だった。ただ単に今までは誘惑に合ったことがないというだけで、彼の美徳というものは極めて弱い城壁で守られているにすぎなかった。

構成

この作品は二つの物語が時系列で同時進行する。ひとつはアンブロシオの罪への誘惑と犯罪、もうひとつはアグネスという名の女性の恋と苦難である。二つの物語は最後に同じ場所で出会い激突するのだが、そんなにややこしくはない構成。

アグネスの物語

アグネスは周りの親から修道院に入るよう促されており、その意向に忠実に従うつもりだった。システルナス侯爵と恋に落ちるまでは。二人が出会った城では「血まみれの尼僧」の幽霊が出る伝説があった。周囲の圧力に屈し侯爵はアグネスを城から連れ出す計画を立てる。むしろそれを考えたのは彼女の方だった。

つまり幽霊の出る日の5月5日の午前1時に血まみれの尼僧の変装をし、城から堂々と出るという手筈だった。侯爵は馬車を近くの洞窟の隠して時を待った。だが時間通り来た尼僧を馬車に乗せて走ったはいいが、それは本物の幽霊だった!

馬車は事故を起こし侯爵は大怪我をした。アグネスは何が起こったのかも分からないまま修道院へ入れられた。しかもその日から取り憑いた幽霊が毎晩現れるようになって、侯爵の命は削られて行く。

彷徨えるユダ

取り憑いた幽霊を祓い侯爵の命を救うことができたのは「彷徨えるユダ」と呼ばれる不思議な男だった。彼は霊視により幽霊の存在を知り、額に刻み込まれた燃える十字架のマークで幽霊を退散した。幽霊は自分の骨が成仏せずあの洞窟に眠っているから、ちゃんと埋葬して祈りのミサを3回あげてくれと頼んだ。

妊娠

システルナス侯爵は回復し、アグネスを探しに修道院へ行った。庭師に化けて侵入しやっと彼女と話すことができた。幽霊に取り憑かれて死ぬ目に合ったことも打ち明けた。いやよいやよの逢引が修道院の隠れた庭で繰り返された。

そのうちに二人の感情が高まりノーヘルで野外セックスをしてしまった。侯爵は貴族の高い地位をもってすれば修道院の誓いを解かれること、アグネスを今度こそ連れ出して妻にすることなどを語った。アグネスは妊娠しついに彼と脱出することを決める。だが計画を書いた手紙がアンブロシオに見つかり、慈悲を乞うアグネスの哀願をはねのけ尼僧院長に引き渡した。

アグネスは誘惑に負けたことを認めながらも、無慈悲なアンブロシオに呪いの言葉を投げつける。高名な修道院長の前で恥をかかされた尼僧院長は怒り狂い、アグネスを胎児もろとも地下墓地に生きながら閉じ込めた。彼女はろくな食べ物もなく地下で出産し、腐肉となった赤ん坊を最後まで抱き続けた。

アンブロシオの物語

まだ15歳にも満たない驚くべき魅力の美しい乙女、アントニアは不幸な星の元に生まれついていた。アンブロシオの説教が行われた日に、システルナス侯爵の友達でアグネスの兄であるロレンゾは同じ教会にいた。彼女の美しさはロレンゾを虜にし、アンブロシオの説教はアントニオの心を捉えた。

アントニアはアンブロシオの説教に感動し強い敬慕の念を抱いたが、それは敬虔な崇拝であり恋愛感情では全くなかった。同時にロレンゾのことも気にかかり始めるが、それが恋愛感情というものだとは全然分からなかった。ロレンゾはすでにアントニアに恋しており、彼女に求婚する段取りを進め始めた。

男装の修道士

修道院でひときわアンブロシオを慕い熱心に使える見習い修道士ロザリオがいた。ある晩庭で二人が出くわすとロザリオがひとり悩んでいる。修道院長が訳を尋ねるがいっかな明かそうとしない。誓ってお前を非難しないと彼が宣言すると、ロザリオは自分が女であること、本当の名前はマチルダということなどを語った。

そしてあまりにアンブロシオを崇拝するあまりこのような変装をして潜り込んだことを謝るのだった。最初明日には出てってもらう、と凄んでいたアンブロシオも次第に情にほだされていく。マチルダは美しい成人女性だった。はじめて間近に見る女体、柔らかな物腰、ふっくらとした唇など。ついにある夜アンブロシオは情欲に負けてマチルダの身体にむしゃぶりついた。

禁断の情事が修道院の隠された部屋で繰り返される。聖者と崇められた男はますます狂態を演じ、ますます肉欲の虜となった。しかしあっという間にその快楽に飽きてしまい、マチルダもただの淫らな女にしか見えなくなった。

アンブロシオの情欲はアントニアの純潔に向けられた。飽きられたマチルダは何の不満もこぼさずに相変わらず仕えていたが、愛が冷めた以上私は娼婦ではないと言って交わりを拒んだ。だからアンブロシオは目覚めた欲求のはけ口が得られずに悶え苦しんだ。

そんな彼を見かねてマチルダは自分は隠れた秘法を身につけた人間であること、その力でアントニアをものにできることを教えた。それは地獄の悪魔を手なずける儀式や魔法の類であった。だが悪魔と契約さえしなければ何の心配もいらないと諭すのだった。

犯罪

マチルダの提案を最初は断っていたアンブロシオだったが、魔法の鏡で風呂に入るアントニアの裸体を見るや誘惑に負けた。そして高名な修道院長は恐ろしい悪と犯罪の道へ走るのであるが、ここは現代ならAVで抜けば済むのに、と思ってしまうのは逆らえない。だがその時代にAVなどはない。

マチルダが地下で魔法円を書いて堕天使ルシファーを呼び出し、渋々力を貸させることとなった。どんな扉でも開錠できる魔法のアイテムと眠り薬を手に入れて、アンブロシオは乙女の寝室へ夜忍び込む。ところが嫌な夢を見て目を覚ました母親が起きてきて犯罪の現場を抑えられてしまう。

まずい、と思った聖人は母親の顔に枕を押し付けて圧死させた。犯した罪の恐ろしさに震えながらその場は情も遂げることなく逃げ出した。

母親の幽霊

その後アントニアの寝室に殺された母親が現れ、3日でアントニアが死ぬと予言した。幽霊に怯える家主はいまだ評判だけは高かったアンブロシオに祓ってくれるようにお願いする。一も二もなく快諾しアントニアの家に行き、マチルダにもらった仮死状態にする薬を彼女の飲み物に混ぜる。

やがて恐ろしい発作とともにアントニアは死んだようになり、修道院近くの地下墓地へ埋葬される。薬が切れて目を覚ましてからアンブロシオが誰にも邪魔されずに彼女を犯すことができるように。

地下墓地

この地下墓地はアグネスも閉じ込められている、底知れない広大な迷路のような場所だった。本の最終はほぼこの地下墓地が舞台である。従って読んでいる人も真っ暗闇の悪臭漂う不気味な空間に閉じ込められているような世界に引き込まれる。

アンブロシオがアントニアを犯すために迷路のような秘密の通路を進んでいると、地上では暴動が起きていた。尼僧院長がアグネスを殺したと言って証言する修道女とともに、兄のロレンゾが宗教裁判所の命令書をもって尼僧院を告発した。

事実を知った群衆が尼僧院長と側近の者らを引き渡せと要求し、怒り狂って血祭りに上げた。尼僧院長は殴り殺され、踏んづけられて最後には血まみれの肉の塊になっていた。アグネスの身元を探して地下墓地の迷路に降りたロレンゾはまだ生きていたアグネスを見つける。さらに怪しい人影が走り去るのを見た。「この墓地には何か秘密が隠されている」そう考えた彼は探求の道をさらに進めた。

少女陵辱

かわいそうなアントニアはアンブロシオの腕の中で目覚めた。一体何が起こったのか全くもって理解できないままパニックを起こす。アンブロシオは彼女を宥めながら、いやらしい愛撫で乙女の体を汚すのだった。まだ埋葬されたばかりの死体も多く眠る地下墓地内で、修道僧は少女を犯した。

1回抜くと賢者タイムになり罪の恐ろしさに身震いするのだった。だが逃げようとするアントニアを力ずくで抑え込むと2回戦もやった。

乙女の死

ロレンゾ一行の近づいてくる物音が聞こえる!アントニアは再び助けを求めて叫ぶ。がしかし罪の露見を恐れた修道僧は短剣を彼女の胸に2回突き刺し、アントニアはロレンゾの愛に抱かれながら息を引き取った。

悪魔との契約

宗教裁判所の手に引き渡されたマチルダとアンブロシオを待っていたのは残酷な拷問だった。罪を白状すればしたで、「火刑の祭り」の真夜中に火あぶりにされることに決まっていた。容疑の罪状は殺人・陵辱のみならず魔法を使ったという重いものだった。

手足の関節を外され、爪を剥がされ、指を潰され、すっかり参っていたアンブロシオの牢獄にマチルダが現れた。彼女の言うところでは自分は悪魔に魂を売ったからもう脱出した、これから地上のあらゆる快楽を味わいに飛び立つのだと。

アンブロシオにもサタンと契約を勧め、魔法の本を置いて消えた。アンブロシオは拷問への恐怖に負けルシファーを呼び出す。契約するからここから逃がしてくれと悪魔に言った。やっとアンブロシオの署名を手に入れた悪魔は喜び、彼の身体を抱き上げた。天井が割れ、アンブロシオは凄まじい速さで飛んで行った。彼らが出ると天井は再び元どおりになった。

破滅

悪魔はシェラ・モレナの恐ろしく切り立った岩の断崖の上へアンブロシオを降ろした。不審に思い訴える彼を無視し、禿げた頭を爪でがっちり掴むと上空へ翼で持ち上げると手を離した。修道僧の身体は尖った岩に何度となく激突し滅茶苦茶に傷つけられた。

身動きもできないまま河べりで倒れていると、無数の虫が這い上がってきて傷の血を吸うのだった。さらに肉食の鷲が彼の両眼を嘴で突いて抉り出した。何も見えず動けず苦しんでいると、この世とは思われない激しい嵐と雷鳴が自然に暴力を振るった。河は水位を増し修道僧の身体をゆっくりと、誰にも知られずに下流へと運んで行くのだった。

まとめ

ロレンゾの恋は破れたが代わりに現れた美女と結婚し良き家庭を持つことができた。またアグネスはシステルナス侯爵と無事一緒になることができた。二組のカップルの成立がこの陰惨な物語の救いである。だがあくまでこの小説はアンブロシオの地獄落ちを軸とした暗黒文学であり、長いけれども読み応えのあるゴシック小説の代表的作品なのである。

物語で問われているのは美徳は無知から得られる産物ではないということである。旧約聖書のアダムとイヴが知識の実を食べて楽園から追放されたことや、ボードレール『悪の華』初版冒頭に掲げられるアグリッパ・ドービニュの詩句にも見られる通りである。マルキ・ド・サドの作品にも同じ哲学が生きている。

天国へは地獄を通らなければ行けないように、美徳は悪徳を凌駕した果てにあるものと思われる。美徳に到達するには悪を否定せず、とことんまで欲望の道を突き進んで極め、善と悪が交わる地点まで行かなければならない。それはアウグスティヌスの『告白』にも読める。かの聖人は異端邪説と肉欲に溺れ続け、30歳過ぎにようやく回心し神の道へ入ったのであった。

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